蛇の言葉を話した男
2024年 11月 10日
映画『ノベンバー』の感想を書いたので、同じ原作者のこちらの小説の感想も。これは傑作だった。

『蛇の言葉を話した男』アンドルス・キヴィラフク著、関口涼子訳
エストニアの森に住み、古から伝わる「蛇の言葉」を話す男レーメットが語り手。その昔、森には蛇の言葉を話し、聖霊を敬い、動物と意思疎通できる人々がおおぜいいた。しかし海の向こうから鉄の男たちがやってきてキリスト教をもたらすと、大半の人々は森を出て村に行き「文明化」されてしまった。レーメットは村の生まれだが、幼い頃、母の浮気相手のクマ(クマは女好きなのだ)に父親が殺されたため、母や姉とともに母の実家がある森に戻ってくる。
蛇の言葉を修得し、蛇と大親友になったレーメットの奇想天外な人生が語られるなかで、キリスト教がもたらす近代化と土着の信仰に結びついた先住文化との対立も描かれていく。
登場するキャラクター(人間だけに限らない)はみな個性的で、なかでもレーメットの「じいちゃん」が群を抜いて強烈なインパクトを放つ。映像化したら間違いなく夢に出てくること請け合い。破壊的なパワーの持ち主であり、小説に登場するイカした老人ベスト10に入る。
物語の前半は猿人が飼っている巨大シラミ(そう、ヤギくらいの大きさに育ったシラミが存在する)と散歩に行ったりするなどそこそこ牧歌的(?)だったが、物語が進むにつれて次第につらい状況になっていく。わずかに残っていた人たちが次々と去ってしまっても、レーメットは森にとどまり続ける。たとえ森から離れることになっても、名前を変えて文明に同化していった人たちとは異なり、レーメットの信念が揺るぐことはない。ドイツ語を話さず、イエスにつかえることもないレーメットは、周囲から異端とされても最後までみずからのアイデンティティを守り続ける。
ラスト近くで訪れる絶体絶命のクライマックス。そこで繰り広げられたまさかの光景には度肝を抜かれた。
「そうだね。何にも終わりがある。毒牙を持っていた最後の男、上空を飛ぶことのできた最後の男は今日死んだ。今後人々は、そんなことはおとぎ話の中でしか存在しないと思うだろう」。
古の魂は、たとえ地上から消えてしまったように見えても、決して失われることはない。地中深くに眠るというサラマンドルは、エストニアの魂なのだと思った。
興味があれば読むと面白いかと。
ベリー公(「いとも華麗なる持祷書」の人は、ヴァンサンという熊を可愛がっていて、お墓にもヴァンサンの彫刻があるそうです)って まったく関係ないことをかいちゃいました。

