A Tomb with a View:死者と生者のための場としての墓地
2025年 03月 14日
昨日はカロートの話をしたけれど、墓地は身近な場所だった。小さい頃は親に連れられて近所の雑司ケ谷霊園によく散歩に行き、有名人のお墓を見て回っていた。有名人と言われても、子供なので説明されても誰なんだかよくわからなかったけど、「怪盗鬼あざみ」という人がなんかカッコ良さげで気に入っていた。小学生になると墓地は遊び場になり、大人になったら緑の少ない都心で自然を感じながら散策するのに最適な場所となった。だから墓地はお化けが出る恐ろしい場所という感覚はなく、むしろ夜の墓地で怖いのは痴漢とひったくりという生きている人間である。
墓地を歩きながら、そこに眠る人々にまつわる歴史について考えるのはとても楽しい。そういう楽しみを持つ人のことを日本語では「掃苔家(そうたいか)」と呼ぶ。そして英語でそれに該当するのが「taphophile」という言葉だということを、昨年のこれよまにメンションで入れた本で知った。
『A Tomb with a View』Peter Ross著、Headline
"I grew up graveyards. The dead were my babysitters, my quiet companions. Not silent, though."
そうなんだよね、墓地は静かで、同時に賑やかな場所なのだ。この著者とは気が合う!
本書は、ヴィクトリア時代の歴史ある共同墓地からエコフレンドリーな自然葬の墓地、不幸な事故で亡くなった子供のための壮大な霊廟や、病で亡くなった幼い子のためのレゴが使われた墓石などなど、英国のさまざまな墓地を訪れた著者が、その歴史背景やそこに眠る人々のエピソードなどを紹介するルポルタージュ。観光ガイドブックであり、歴史書であり、興味深い人々の伝記であり、英国の墓事情について学べる本でもあるという、大変充実した内容になっている。何より、著者の墓地に対するあたたかい眼差しと愛情がひしひしと伝わってくる。
スコットランドにも忠犬ハチ公のような犬(Greyfriars Bobby)がいたということや、作家でエジプト学者のアミーリア・エドワーズと共に埋葬されたエレン・ブライシャーのことを本書で初めて知った。貧しい人々や娼館で働いていた女性たちなど、おそらく1万5000人くらいが埋葬されたというロンドンのクロスボーンズ(墓地といっても墓石などはなく、メモリアルガーデンになっている)や、アイルランドの「cillín(複数形はcillíní)」という「洗礼を受ける前に死んだ幼児や死産した子供のための埋葬地」の話も印象深い。
しかし強烈なエピソードは19世紀の劣悪な墓地の状況だ。昔は土葬なので当然ながら都市部では場所が足りなくなる問題が生じ、新しい遺体を埋葬するために、古い遺体が腐敗する前に掘り出されることもしばしばあった。そうした悲惨な墓地の実態を記した本に、医師のジョージ・アルフレッド・ウォーカーが書いた『Gatherings from Grave Yards』があり、そこに出てくるEnon Chapelの状況が筆舌に尽くし難いほど酷い。だって、日曜学校の子供達にハエの大群がたかり、お祈りしていると口の中が変な味がしてくるほどって凄惨すぎる。そうしたあまりに不衛生な状況を改善すべく法律が変わり、中心地から離れた人口密度の低い場所に広々とした墓地が建設されるようになった。
とはいえ、メンテナンスがきちんとされていないと、霊園はあっという間に荒れてしまう。
墓地を維持することについても要所要所で触れられていて、最終章ではブリストルにあるArnos Vale墓地が紹介されていた。80年代に住宅地として再開発されそうになったのが、住民たちの反対運動や裁判を経て、2003年に市議会が墓地を所有しトラスト団体が管理を任されるようになった。当初は荒れ果てて目も当てられない状態だったのが、今は緑豊かな市民の憩いの場でもある歴史あるガーデンセメタリーになっていて、結婚式もできるらしい。
墓地は死者の場所でもあると同時に、生きている人のための場所でもあるんだよね。
by rivarisaia
| 2025-03-14 23:06
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