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見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
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Reservoir Bitches:血と暴力と死に満ちた日常をサバイブする女性たちを描く短編集

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Reservoir Bitches
Dahlia de la Cerda著、Julia Sanches、Heather Cleary訳、Scribe

国際ブッカー賞ロングリストにノミネートされたメキシコの短編集。収録されている13篇のショートストーリーはすべて、血と暴力と死が身近にある日常をサバイブしていこうとするさまざまな立場の女性が主人公。

まず、収録作は以下の通り:

Parsley and Coca-cola
Yuliana*
God Forgive Us
Constanza*
God Didn't Come Through
La China*
The Rose of Sharon
Regina*
Mariposa de Barrio
The Smile
Sequins
Playing with Fire
La Huesera

女子大学生が望まない妊娠をして中絶を試みるという第1話は、とても短い話なのにかなり強烈なインパクトを放つ。読んでいて痛々しくグロテスクなんだけれども、女性の身体にかかる負担の大きさと不公平さについて改めて考えてしまう(妊娠させた男性側は身体的には何の負担もないわけだし)。

*印が付いている4つの話「Yuliana」「Constanza」「La China」「Regina」は、登場人物がリンクした連作短編で、超金持ちの麻薬カルテルのボスの娘Yuliana、その親友Regina、Reginaの姉でメキシコ次期大統領候補者の妻となるConstanza、Yulianaのボディガードで殺し屋のLa Chinaと、各話の語り手の名前がタイトルになっている。

その間に挟まる「God Forgive Us」と「God Didn't Come Through」は対になっている作品で、強盗を殺害してしまった女性たちと、貧困から強盗に手を染めることになる女性を双方の視点から描いている。どちらも被害者であり、加害者の立場だ。

原書の『Perras de reserva』は2019年に最初の9篇を収録した初版が出版され、2022年に後半の4篇を追加した第2版が出た(参照LINK)。

追加された4篇のうち「The Smile」「Sequins」「Playing with Fire」はマジックリアリズム的な要素がある作品。「The Smile」はレイプされて殺された語り手の女性が蘇って犯人に復讐しようとするし、「Sequins」では殺害されたトランス女性が自らの死を俯瞰する。「Playing with Fire」はFacebookで大人気のブルハ(呪い師)が悪魔を呼び出して迷惑な隣人に呪いをかけようとする。

最終話の「La Huesera」は、語り手が死んだ友人に向けて書いている長い長い手紙のような作品だった。ある晩、一緒にパーティに行き、先に家に帰ったはずの友人はそのまま行方不明になって半年後に死体で発見された。なんで自分は彼女と一緒に帰らなかったんだろう、という深い後悔の手紙だ。タイトルは、作中で触れられているアルゼンチンの作家セルバ・アルマダの『Chicas muertas(死んだ娘たち)』から引用されている。アルマダのその本は80年代にフェミサイドの犠牲となった女性たちに関するノンフィクションで、「La Huesera」も同様に、語り手の「私」が友人の死をきっかけに、メキシコで毎日のように殺されている膨大な数の女性たちに思いを馳せる。

本書について著者のDahlia de la Cerdaは次のように語っている。

「私の本は、麻薬社会のような暴力的な環境の中で、手に入るものならなんでも利用して必死に生き延びようとするメキシコの女性たちを描いている。誰もが被害者であると同時に加害者でもあるという、非常に複雑なメキシコの現実にインスピレーションを得ている。暴力に直面したとき、人は生き延びるために必要なことをするが、その結果、しばしば道徳的にグレーな領域に足を踏み入れることになる」(LINK

女性と暴力というテーマが根底にあるため、虐待や殺人、レイプといったトリガー・ウォーニングの要素に満ちていて、読者を選ぶかもしれないけれど、これは本当に読んでよかった。

ちなみに、各作品では音楽への言及も多くて、いろいろな曲名が登場するので、読みながら曲を検索してこの本のプレイリストを作成した。知らない曲ばかりだったけど、音楽に詳しい人なら、なぜそこでその曲なのか、ということもわかるのかもしれない。

by rivarisaia | 2025-05-10 21:27 | 書籍 | Trackback | Comments(0)