人気ブログランキング | 話題のタグを見る

見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

Crooked Seeds:アパルトヘイト後の南アフリカが抱えるトラウマの物語

Crooked Seeds:アパルトヘイト後の南アフリカが抱えるトラウマの物語_b0087556_23182632.jpg
Crooked Seeds』Karen Jennings著、Hogarth

2028年、ケープタウン。何年も干ばつが続き、頻繁に山火事が起こり、人々は極端な水不足に悩まされていて、街は荒涼としている。

主人公のDeidreは53歳の白人女性で、1994年に事故で片足を失った。生きる気力もなく、惰性で日々過ごしている彼女は、ある日、警察から電話を受ける。政府が接収した彼女の実家の床下から、複数の乳児の遺体が発見されたというのだ。Deidreの兄は白人至上主義者のグループに関与しており、長らく行方不明になっていた……

『An Island』『Upturned Earth』の著者、南アフリカのKaren Jenningsの作品。とにかく主人公のDeidreがまったく好感が持てない人物で、不潔だし、嫌な性格なんだけれども、それがかなり重要な要素となっている。彼女がそうなってしまった背景には家庭環境に問題があった。また兄が起こした事故で片足を失ったことで心身ともに深く傷ついてもいる。しかし「かわいそうな自分」というアイデンティティを拠り所にしてしまっているDeidreという人物は、アパルトヘイト後の南アフリカ(の白人)が抱えるトラウマを象徴しているのではないか。

アパルトヘイトの時に黒人も大変だったかもしれないけど、白人至上主義者のせいで自分たちだって傷ついた。ある意味では自分たちもアパルトヘイトの被害者なのだと言いたげな白人の代表みたいな人物がDeidreなのだと思う。でも家の下から過去が掘り返されたことで、Deidreは目を背けていた現実と向き合わざるを得なくなる。

鬱屈としているけれど、重層的で力強い小説だった。


by rivarisaia | 2025-05-20 23:58 | 書籍 | Trackback | Comments(0)