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見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
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『Sinkhole, and Other Inexplicable Voids』SFやシュールな展開の16話を収録した短編集

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『Sinkhole, and Other Inexplicable Voids』
Leyna Krow著、Penguin Books


SFやシュールな展開の16話が収録されている短編集。そのうちの6つが連作短編になっていて、5つにはある家族が共通して登場する。

最初の話「The Twin」は、連作短編の1話目にも当たり、ベビーベッドで泣いている息子の様子を母親が見に行くと、隣に息子のドッペルゲンガーともいえる赤子がいて泣いているという、いきなりシュールなシチュエーションで始まる。

いきなり赤ちゃんが増えていて動揺する両親をよそに、4歳の娘は新たに出現した赤ちゃんを「双子だね」と自然に受け入れて、名前まで教えてくれる。両親は新しい息子も双子として一緒に育てることにするんだけれど、突然現れた子供はいつか突然消えてしまうのではないかと母親は不安になっていく……。

その十数年後が別の話(「Egret」)で描かれ、成長した双子のドッペルゲンガーにはどうやら不思議な力があることがわかる。

壊れた物を投げ込むと修復されて戻ってくる不思議な陥没穴(「Sinkhole」)、数カ月で大人サイズに成長した赤ちゃん(「Moser」)、未来から次々とやってくるタイムトラベラー(「A Plan to Save Us All」)といった風変わりな物語に加えて、連作短編では山火事や火山泥流などの自然災害が頻発する近未来を舞台するなど、環境問題をテーマにした話も多い。以前、Charlotte McConaghyの本はエコロジー文学というジャンルじゃないかと書いたけれど、この本もそれに該当する。

最初の話で4歳だった女の子は、連作短編の3番目の話「Rip Kittitas Bong Squad」では大人になって結婚して妊娠しており、気候変動の激しい不安定な世の中に子供を送り出していいのかと、倫理的な面でも不安を抱えている。それに赤ちゃんを守るためには、高額の空気清浄機に投資しなくてはいけない。それでも健康に育つかわからないのだ。


"She feels guilty for her own safety, for the privilege of being able to buy safety, and the fear that that privilege is really just an expensive illusion."


安心を金で買うという特権性についても、彼女は罪悪感を感じてしまう。この話は遠くない未来を設定しているけど、すでに現実世界もそのような構図になっている。

連作短編に描かれている世界では「マウントレーニアのエモンズ氷河が崩壊し火山泥流(ラハール)が発生して多くの人が亡くなった」ということが、たびたび言及される。その災害は、「Outburst」で若い地質学者の女性の視点で詳細に描かれる。彼女の警告に、多くの人は真剣に耳を傾けない。やきもきしながらも、彼女は自分にできることに力を尽くすことしかできず、そして自然の威力の前ではなす術もない。この状況も、現実世界の鏡のようだった。

by rivarisaia | 2025-08-04 23:08 | 書籍 | Trackback | Comments(0)