『Endling』最後のカタツムリと婚活ツアー、ウクライナを舞台にした独創的な物語
2025年 09月 09日
2022年、ウクライナ。一匹狼の生物学者のYevaは、トレイラーを研究室にして、希少なカタツムリの研究をしている。お気に入りのカタツムリは、「その種の最後の生き残り(エンドリング)」である左巻きのレフティだ。Yevaはアセクシャルなのだが、研究資金を獲得するために婚活ツアーのサクラ要員として働いてもいる。アメリカやいわゆる"西側諸国"の男性たちが、フェミニズムに毒された現代的な女性ではない「昔ながらの従順な女性」との出会いを求めて、国際結婚あっせん会社によるウクライナへの婚活ツアーに参加している。
たとえば、その婚活ツアーに参加していた男性の中に、Pashaという人物がいた。彼は幼い頃に家族と共にカナダに移住したウクライナ人のエンジニアで、カナダでの人生があまりにも冴えない上にアイデンティティクライシスに陥っており、ウクライナに戻って人生をやり直そうと考えていた。
同じ婚活ツアーには、NastiaとSolという姉妹もいた。ふたりは姉妹であることを隠し、結婚相手を探している女性とエージェンシーに所属する英語を話す通訳という立場を装いつつ、行方不明になった母親を探していた。ふたりの母親は、そうした国際結婚あっせんビジネスに激しく反対する抗議運動を長年にわたり行ってきたフェミニストの活動家だった。
さて、Nastiaは、母親を見つける作戦として、婚活ツアーに参加する男性たちを誘拐するという荒唐無稽な計画を思いつく。そしてYevaに協力を申し出るのだが、作戦を決行したタイミングでロシアがウクライナに侵攻し……
ブッカー賞ロングリストの作品。ほかの候補作は読んでないけど、もうこれがブッカー賞取ったらいいんじゃないかと思う。ショートリストに残らなかったとしても、私の中では今年のブッカー賞はこれ。ダークユーモアに満ちていて面白い部分があると同時に、心に突き刺さる現実を容赦なく突きつけて言葉を失わせるパワーがあり、構成がぶっ飛んでいて、なんというかすごい本だった。最初の方は話がどう転ぶのかよくわからないと思いながら読んでいたのだが、Part IIで話が予想外の方向に展開してから、「なんだこれは」という気持ちになって一気に最後まで読んだ。
絶滅寸前の最後のカタツムリと誘拐された13人の独身男性たちを道連れにした、3人の怒れる女性たちのロードトリップ小説であり、シスターフッド、搾取される女性、国際結婚ビジネス、移民、侵略戦争、抵抗についてのメタフィクション。フィクションと現実の境界は曖昧になり、結末は何度も書き直される。この本を読んでいる最中、ウクライナの描写がたびたびパレスチナと重なって見えた。
Yevaは「カタツムリはパンダじゃなかった」と言う。パンダみたいに多額の国家予算を費やして保護してもらえるわけでもなければ、シャチやゴリラみたいにカリスマ性もないし、コアラやカワウソみたいにカワイイわけでもない。払い落とされ、踏み潰されてしまうような存在なのだ。
この本は、そのちっぽけな、絶滅寸前の、たった1匹のカタツムリの生存のために、戦場となった場所で命をかけて奮闘する話でもあるのだけれど、カタツムリはウクライナであり、今現在、この世界で存続のために闘っているさまざまな人々をも象徴しているのだと思う。
by rivarisaia
| 2025-09-09 22:41
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