地獄に堕ちた勇者ども

先日、インデックス作成していてハタと気づきました。ヴィスコンティといえば『山猫』を紹介していないが、それよりなにより『ベニスに死す』も『ルートヴィヒ』もあるのに、肝心のドイツ三部作の第一弾がない。片手落ちじゃん、と。

そこで、第一弾『地獄に堕ちた勇者ども (La Caduta degli Dei/The Damned)』です。
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犯罪が起きていながら、実際には処罰がなされない、そんな家族の物語を描いてみたかったのだ。そのような事態は現代史ではナチズムのときだけだ。
--「ヴィスコンティ集成」より


ヴィスコンティが上のように語る本作は、ナチス台頭とともに崩壊に向かう鉄鋼王・エッセンベック男爵家の話です。ある意味では、「華麗なる一族 in ドイツ第三帝国」という感じもなきにしもあらず。ただし頽廃度はまったく違う。

タイトルバックに映し出されるドロドロに溶けた真っ赤な鉄は、男爵家に渦巻く人間の欲望を象徴するかのよう。まともな人々(シャーロット・ランプリングとか)は蹴落とされていく、欲望に蝕まれた椅子とりゲームであり、さまざまな欲望を飲み込みながら巨大なパワーを手中におさめていくのがナチスなのでした。

この映画について三島由紀夫は次のように語っています。

変質のかけらもないアシェンバッハ(ヘルムート・グリーム)の冷徹な「健全」。悪魔的でナチスの悪と美と健康を代表している。真に恐ろしいものはこちらにある。


まさにおっしゃる通り。登場人物が皆どこか異常なのに反して、一見フツウに見える影の主役・アシェンバッハがもっとも凶悪です。唯一残された好青年・ギュンターをも悪に染めた凄腕の持ち主。つまりは、ナチスの前に普通の人はまったく生き残れないということだ。
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え、俺?と言われるかもしれませんが、あんたが一番酷い人だよ!アシェンバッハさん!


「ゲルマン女」オーラを放つイングリッド・チューリンの妖しさもすごいですが、個人的にはヘルムート・バーガーがいちばん輝いて見えるのはこの映画だと思います。しかし、そんなバーガーは登場シーンは女装、おまけに幼児愛好者で近親相姦で、小心者な性格が災いしてナチスに洗脳されるという、普通なら輝きようがないハズの役柄ときたもんだ。

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いきなりマレーネ・ディートリッヒの『嘆きの天使』で登場するバーガーにドン引きする人もいると思う。しかし、終盤、ナチ親衛隊の軍服を着たバーガーは「異常」にカッコよく、彼のためにこの軍服は存在するのでは、と思わされるほど。でも、どんなに似合っていても、観客は彼の異常さを重々承知しているのでした。そこが、見た目もカッコよければ内面も健全そうにナチスを撮影したリーフェンシュタールの映画と違う点。

好き嫌いがわかれそうな映画ですが、美と恐怖が折り重なる描写はさすがにヴィスコンティです。特に「長いナイフの夜※」のシーン。血の粛清が起きる直前に映し出される、静かな夜明けの湖畔が息を飲むほど綺麗なんだよなあ。

※1934年6月30日、ナチス主流派が突撃隊 (SA) を粛清した。史実が映画のストーリーとうまく絡んできます。
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by rivarisaia | 2007-01-25 23:58 | 映画/洋画 | Trackback | Comments(0)

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