土星の環—イギリス行脚
2008年 02月 13日
ときどき思うのですよ、この世にとうとう慣れることができなかったと、そして人生は大きな、切りのない、わけのわからない失敗でしかない、と。
いきなりちょいと暗い文章ですが、私の気分が落ちているわけではありません。むしろ週末のビッグイベント(周杰倫@武道館)に向けてヤバいくらい高揚中の今日この頃。少し気分が落ちたほうがよいくらいだよ.....。
『土星の環—イギリス行脚』W.G. ゼーバルト著 鈴木仁子訳 白水社
冒頭の文章はこの本からの引用です。やっぱりこの人は、生きていたらノーベル文学賞を取ったのでは。そして、鈴木仁子さんの翻訳が本当にすばらしい。
サブタイトルに「イギリス行脚」とあるように、サフォーク州を徒歩で旅する<私>の物語ですが、いわゆる旅行記ではなく、ひたすら歩く<私>が、目にしたものや出会った人々からとりとめもなく数々のことを連想していく。バルカン半島の虐殺の歴史、ベルギーがコンゴで行なった強制労働、咸豊帝と西太后、砂糖黍栽培、養蚕業と絹織物......といった具合に、一見脈絡のないこれらのことが、幾重にも折り重なってひっそりとした情景を生み出しているところが、まるで無数の破片や氷の結晶で形成された土星の環のようです。『 アウステルリッツ 』を読んだときもそうでしたけど、ゼーバルトの文章はすうっと吸い込まれて、そのまま頭を通り抜けてしまい、読んでいるときに連想したイメージの痕跡だけが残るような感じ。そういう意味で、本書の印象は、寂寞たる廃墟を時空を超えて俯瞰しているかのようでした。寂しいのに爽やかである、という点が摩訶不思議。さらにいえば、挿入されている数々の写真が、話の奥行きをさらに深くしているのも不思議。読み終わるのが惜しい本だった。またいつか再読すると思う。
by rivarisaia
| 2008-02-13 23:59
| 本
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