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2008年 09月 27日 ( 1 )

イタリア人ならほとんど皆が読んでいる、ダンテの『神曲』と並ぶ名作がこれ。

いいなづけ―17世紀ミラーノの物語
アレッサンドロ・マンゾーニ著、平川 祐弘訳、河出書房新社

まだイタリアが建国されていないときに、いまのイタリア語に近いイタリア語で書かれた小説(つまり、1800年代に教養のある人々が使っていた"話言葉"のフィレンツェ語)。
したがって、本作が現代イタリア語の礎を築いたともいえます。
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そんな偉大なる物語なので、イタリアの高校生は全員読んでいるといっても過言ではない(らしい)。疑り深い私は「本当にイタリア人は皆読んでいるのか」と周囲のイタリア人に聞き回ってみましたが、本当に本当みたいですよ! 少なくとも文系なら高校の必修で全部読み通すそうだ。

なるほど。では、イタリア語を習っているなら読まないとねえ…と思って、読みました。日本語で。

本書のあらすじは、ひとことで言うと
「結婚を誓ったふたりの恋人が、さまざまな妨害にあい、はなればなれになるものの、最後はめでたく結婚式を挙げる」

という、あんまりおもしろくなさそうな、ありがちな内容です。実際、上巻なかほどまではちょっとダルかった、と告白しておきます。

しかし、妙に腹黒い尼僧が登場するあたりから、だんだんおもしろくなってきました。そして中巻から登場する悪党インノミナートや、偉大なボルロメーオ枢機卿など、次々に登場する脇役が魅力的。もはや主人公のカップルはどうでもいい、と思う私であった。

ボルロメーオ(ボロメオ)枢機卿は実在の人物で、ミラノのアンブロジアーナ図書館を設立した人。本書で描かれるように偉大な面も確かにあったけど、実際には魔女狩りも積極的に行なっていたらしいよ。また、悪党インノミナートは、フランチェスコ・ベルナルディーノ・ヴィスコンティという、これまた実在の人物がモデル。悪党のはずが、改心してイイ人になっちゃうのに驚いた。それもどうやら実話らしい。

個人的に本書でいちばん興味深かったのは、下巻のペスト流行の描写です。
ペスト小説というジャンルがあるなら、ベスト5に入れてもいい。当時の一般大衆のパニックぶりは、現代にも通じるものがあります。

当時の人々は、ペストの毒を塗って病気を広めている「塗屋(ぬりや)」が存在すると信じており、そういう陰謀めいたことはありえないと主張すると、頭が固いと非難されたばかりか塗屋の一味と疑われた、というくだりなど、災害時に本当に恐ろしいのはヒステリックな大衆だよね、と『ミスト』を思い出した私です。

そのほかにも、マンゾーニさん、まさしくおっしゃる通りですよ!というのは、たとえばこんな文章。

人心が戦々兢々としている時によく起こることだが、そうした時は話を聞いただけで見たような気になるものである。(中略)というのも怒れる人は常に懲罰を望むからであり、(中略)怒れる人は憎悪の根源を邪悪なる人間性に求めがちなものである。それというのも相手が人間である限りは報復することが出来るが、憎悪の根源が人間以外の原因であるとなると、もはや諦めるよりほか仕方がないからであろう。


ごもっともでございます。人間は、恐ろしいことが起きると、さも見たような気になっちゃうし、誰かのせいにしたいのです。

さらに、これ。
変な事態が生じたと皆が皆信じこんで長い時間が経ったとき、俺がそれをやらかしたと思いこむ人間が登場しないなどということはまずあり得ないことである。

そうね。確かに「俺がやりました」と言い出す人は必ず登場しますね。いまも昔も変わらないってことね。

さて、主人公たちにややイライラしていた私ではありますが、ペスト流行のあたりで、"短気は損気"な男主人公と頑固で泣き虫の女主人公が、それぞれ神父さんからガツン!と説教されていて溜飲が下がりました。最後はハッピーエンディングですが、主人公たちの後日譚に味があっておもしろい。

17世紀イタリアの歴史や文化に興味がある人、ペストの話に興味のある人などで、未読の人にはおすすめです。
by rivarisaia | 2008-09-27 19:11 | | Trackback | Comments(2)

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