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At the Existentialist Café:実存主義の哲学者たちの思想と人生がつまった1冊

ここ数ヶ月で読んだ本の中で、到底自分に理解できたとは思えないんだけれども、非常に興味深く、これだけ多岐にわたる内容を1冊にまとめあげた著者に感服するし、折に触れて何度か読み返したいのがこちらです。哲学の思想と哲学者の伝記と近代史が合体したような本。

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At the Existentialist Café: Freedom, Being, and Apricot Cocktails with: Jean-Paul Sartre, Simone de Beauvoir, Albert Camus, Martin Heidegger, Edmund Husserl, Karl Jaspers, Maurice Merleau-Ponty and others』Sarah Bakewell著、Chatto & Windus

タイトル、おそろしく長いですね。『実存主義者のカフェにて:自由と存在とアプリコットカクテルを、ジャン=ポール・サルトル、シモーヌ・ド・ボーヴォワール、アルベール・カミュ、マルティン・ハイデッガー、エトムント・フッサール、カール・ヤスパース、モーリス・メルロー=ポンティらとともに』というのが直訳。

1933年、パリ。モンパルナスのカフェで、3人の若者がアプリコットカクテルを前に集っていた。その3人とは、ジャン=ポール・サルトル、シモーヌ・ド・ボーヴォワール、レイモン・アロンである。この時に生まれた新しい思想は、やがてパリから世界中に広がり、第二次世界大戦のレジスタンスを経て、戦後の解放運動、学生運動や公民権運動へとつながっていく。

こうした歴史的背景をふまえつつ、本書はサルトルとボーヴォワールを中心に、ふたりをとりまくおびただしい知識人たちの思想と人生を描き出していきます。

どのような人物から、なぜそういう思想が生まれたのか、時代によってその人の考え方がどう変わっていったのかをざっくりと把握でき、ヨーロッパの実存主義の系譜を俯瞰するのにとてもよい入門書です。

なにより、思想部分は難解だとしても、人物のエピソードがどれも面白い。かなりたくさんの人々が出てくるので覚えきれないんですが、とりわけ印象に残っているのがベルギー人の哲学者ファン・ブレダの話。フランシスコ会の司祭でもあったファン・ブレダは、45000ページものフッサールの原稿をナチスの検閲をかいくぐって安全な場所に持ちだすのですが、それが今もルーヴァン大学に残るフッサール文庫なのだった。短いエピソードながら、手に汗にぎる! 映画化してもいいくらい。

同じくフッサールにまつわる人物で、エーディト・シュタインと姉のローサも哀しくて心に残る。ユダヤ人だけれどカトリックに改宗し、カルメル会の修道女で哲学者だったエーディト・シュタインは、同じくカトリックに改宗していたローサとともにアウシュビッツで亡くなっています(エーディト・シュタインはのちに列聖されている)。いっぽうでハイデッガーときたら!

カール・ヤスパースのかっこよさも記しておこう。妻がユダヤ人なので大学を追われたヤスパースは、妻の引き渡しを自宅に立てこもって断固拒否。いよいよふたりとも収容所送りに……というタイミングで連合軍に救われるのだった(なのにハイデッガーときたらさー)

本書のおかげで、エーディト・シュタインやヤスパースの著作も読んでみようかなという気になっていて、あ、その前にボーヴォワール著作集も読まなくちゃ!



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by rivarisaia | 2016-08-31 23:20 | | Trackback | Comments(0)

Lilac Girls

女性を主人公にした第二次世界大戦の物語でベストセラー入りしている、と聞くとうっすらと警戒心を抱いてしまうようになったのは、昨年読んだKristin Hannahの『The Nightingale』に納得がいかなかったからで、あれはページターナーだったけれども、たくさん盛り込みすぎてて、読後に残るものもなく、なぜあんなに評価が高かったのかほんと謎な1冊でした(私は感想を書いてないけれども、渡辺ゆかりさんのレビューとほぼ同意見なのでそちらをお読みください)。

さて、そして今年。女性を主人公にした第二次世界大戦の物語で、ベストセラー入りしていた本がこちらです。同じように、ページターナーで、メロドラマ的な要素も予定調和的な展開もあるのに、この本はずっしりと心に刻まれた。なんでだろう?

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Lilac Girls』Martha Hall Kelly著、Ballantine Books
1939年9月、ドイツ軍がポーランドに侵攻。
その時から1959年までの20年間を、ニューヨークのフランス大使館で働く社交界の女性 Caroline、ポーランドの女学生 Kasia、ドイツの女医 Hertaという3人の女性の視点で描く、実話をもとにした物語です。

3人の主人公のうち、アメリカ人の Caroline Ferridayと、ドイツ人の Herta Oberhauserは実在の人物、Kasia についてはモデルがいるけれど、フィクションです。

ニューヨークにいる Carolineの章は、彼女の勤務先がフランス大使館ということもあって、刻々とヨーロッパの緊迫した状況が伝わってくるものの、海を隔てた米国にいるわけですし、さらに著者が創造した Paulという人物とのロマンス要素がかなり入ってくるので、わりとのんびり構えて読めていたのですが、ポーランドの Kasiaとドイツ人のHertaの章が序盤から過酷さを増して、どんどん壮絶なことになってきます。

おかげで、Carolineと Paulとのロマンス、最初はけっこう鬱陶しかったというのに、これくらいないとやっていけないよ……という気分に!

以下、少し内容にふれますが、私、内容を知らずに読んだのですけど、本書は、ラーフェンスブリュック強制収容所の話なのでした。

ラーフェンスブリュック強制収容所は、主に女性が収容されており、カープ・ゲプハルトによる人体実験が行われていた場所です。主人公の一人であるヘルタ・オーバーホイザーは、人体実験の助手を行っていた医師でした。

たった一人の女性として男性ばかりの勤務地にやってきた当初は、確かに医師としての倫理観があったはずのヘルタの感覚が麻痺していく様がとてもつらい。さらに、Kasiaとその周囲の人々の身の上に次々と起こる出来事はあまりにひどすぎて絶句するしかない。

戦後、世界はナチスのユダヤ人に対する仕打ちに驚愕し、そのインパクトがあまりに強すぎたせいで(そしてそのほかの要因もあって)、「ウサギ」と呼ばれていたラーフェンスブリュックのポーランド人に対してはさほど注意が払われなかったのでした。人体実験の後遺症に苦しんでいるのに、忘れられつつあった彼女たちに世間の目を向けさせ、彼女たちのケアに奔走したのが Caroline Ferridayです。

本書の結末は出来すぎかもしれないけれども、もしかしたらありえたかもしれない、ひとつの克服のようにも感じました。

Caroline Ferridayについては、本書で初めて知り、非常に興味を持ったのでもっと詳しく調べてみたいです。ちょっとググってヒットしたDaily Mailの記事のリンクはこちら




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by rivarisaia | 2016-07-22 22:13 | | Trackback | Comments(2)

Le Corbusier: Texts and Sketches for Ronchamp:コルビュジエによるロンシャンのスケッチ本

上野の国立西洋美術館が世界文化遺産に登録されるかも、というニュースを最初に聞いた時はけっこうびっくりしたけれども、「ル・コルビュジエの建築作品」として7カ国17施設まとめての推薦だったので、まあそういうこともあるのか、とぼんやりと納得しつつも、どうも西洋美術館は「ル・コルビュジエの建築」というよりも「ル・コルビュジエのお弟子さんの建築」というイメージです(コルビュジエさんは、設計案を送ってきて、完成しても見にもこなかったというじゃん、あんまり気に入ってなかったのかな、みたいな偏見がわたしにあるのかもしれない)。

それはそうと、私はさまざまな建築家の建築作品にも興味はあるけれども、それ以上に好きなのが建築家のスケッチ群で、場合によっては完成した作品よりも数々のスケッチのほうが好きだったりする。

どの建築家も個性的で味わいのあるスケッチをたくさん残しているのだが、ル・コルビュジエもとてもよいスケッチを残していて、家人がロンシャンを訪れた際に求めた少し大きめの豆本のようなスケッチ集がこちら。

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Le Corbusier: Texts and Sketches for Ronchamp

表と裏の見返しに、不機嫌そうなル・コルビュジエの顔がどどーんと印刷されていて、見るたびに笑ってしまう。本文はモノクロ印刷で、テキストは英語。

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スケッチのラインがとてもよい。手書きの文字も悪くないよね。どんなペンで書いたのか、きになるところ。

残念ながら私はロンシャンには行ったことがなくて、フランスで行ったことがあるのは、サヴォワ邸。ちょうど到着したのが12時の少し手前で、お昼休みとやらで門がガッツリと閉じていた。途方に暮れていたら、通りすがりのフランス人のおじさんがインターホン越しに中の人と交渉してくれて(「まだお昼前ではないか。わざわざ日本から来た若者たちのために門を開けてくれたまえ」というようなことを言っていたのだと思う)、中に入ることができたのだった。おじさんもちゃっかり一緒に中に入って見学してたけど。

ありがとう、あの時のおじさん! 今はどうしているかしら。


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by rivarisaia | 2016-07-18 13:12 | | Trackback | Comments(0)

Astray: エマ・ドナヒューの短編集

ちょうど『ルーム』公開つながりで、エマ・ドナヒューの短編集を紹介。これ、感想書いたつもりでいたけど、気のせいだったみたい。読んだり観たりしたらすぐ書くようにしたい……(これ言うの何度目)。

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Astray』Emma Donoghue著、Little, Brown and Company刊

タイトルの「astray」は、「道に迷った」という意味で、本作は「Departures」「In Transit」「Arrivals and Aftermaths」の3つのパートに分かれており、移民、逃亡者、放浪者、弁護士や彫刻家などなど、様々なさまよえる人々が主人公の短編が14話収録されています。

どの短編も、現実に起きた出来事が元になっていて、ひとつひとつの物語の後に、実際の出来事について紹介するページがある。それは新聞に掲載された小さな記事だったり、どこかに保管されていた記録だったり、断片的な情報しか残っていないけれど、彼らは確実に存在していた。そんな人々の、もしかしたらこんなだったかもしれない物語。

短編集の常として、心に残る話とあまりピンとこなかった話が混在してはいるものの、特に印象深かったものを厳選すると、私の場合は以下の6話。

「Last Supper at Brown’s」
元になったのは1864年にテキサス州で起きた事件。主人を殺害して、その妻と逃亡した奴隷の話。

「Counting the days」
1849年、カナダ。ある移民の夫婦の話。夫が先に移住して、後から妻がやってくるんだけれども……。これはとても切ない。

「Snow-blind」
ゴールドラッシュの時代の、二人の男の友情と別れ。

「The Gift」
以前『Orphan Train(孤児列車)』という本を紹介したけれど、これはその孤児列車がらみの話で、養子縁組団体を介して交わされた、産みの母親と養父の手紙が元になっています。

『Vanities』
1839年ルイジアナ州のプランテーション。従姉妹の死の謎を探る少女の話。

『The Hunt』
アメリカ独立戦争さなかの少年兵の話。1776年末、ニュージャージーやスタテンアイランドにおいて、英国とドイツ軍によって組織的なレイプが行われていたというのを知らなかったので、本書でいちばん衝撃的だった。参考文献としてあげられていた『Rape and Sexual Power in Early America』(Sharon Block著)を読んでみたい。

そのほか、亡くなった時に女性だったことが判明したMurray Hallの話(「Daddy's Girl」*実際にはHallの娘が主人公)や、男装の女性 Mollie Sanger の話(「The Long Way Home」)も良かった。

著者は、実在の人々のその後を調査していたりもするので、事実紹介ページは後日談のようでもあった。フィクションとリアルが交差して、不思議な読後感を味わえる短編集でした。


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by rivarisaia | 2016-04-18 22:39 | | Trackback | Comments(0)

The Thing About Jellyfish

去年のNational Book Awardファイナリスト、NY Timesベストセラー、Publishers Weekly Best Bookなどでちらほら見かけていて、気になっていた児童書。親友を亡くした女の子が後悔の念に苛まれながらも、なんとか立ち直っていく過程を描いた物語。

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The Thing About Jellyfish』Ali Benjamin著、Little, Brown Books for Young Readers

12歳のスージーには親友フラニーがいて、でもそのフラニーは休暇中に事故で死んでしまった。それ以来、スージーは口をきかなくなってしまう。
泳ぎが得意だったフラニーが溺れるなんてありえない。スージーのママは「そういうこともあるのよ」と言うけれど、納得のいかないスージーは親友が溺れてしまった理由を探そうとする。
もしかしたらフラニーは、猛毒のクラゲに刺されてしまったのでは?
自分の内側にこもり、とりつかれたようにクラゲについて調べ始めるスージーだが、彼女にはもうひとつ誰にも言えないことがあった……

ちょうど小学生から中学生になったばかりの微妙な微妙なお年頃の話で、スージーのお兄ちゃんとその彼氏も「一番きっつい時期だよなー」というようなことを言ってるんですが、まったくもって同感である。

今は学校では友だちが全然いなくて、周囲から浮いてる存在であるスージーが、唯一の親友だったフラニーの死、というかむしろそれに付随するクラゲの生態に全エネルギーを注ぐ勢いで執着する理由は、次第に明らかになるんだけれども、大人になってみれば「子どもの頃にはよくあるよね〜」というような事柄だったりする。でも、それは子ども本人にとっては、すごく心が傷つく一大事なのだ。

ただ、スージーが親友に対して「あること」をしでかした件については、かなりびっくりしました。スージー、いくら変わってる子だからって、それってどうなの……。

ちょっと切なくて、ほろっとしながらも、でも最後は明るい未来が感じられて、おまけにクラゲについてのトリビアも得られるという1冊です。オーストラリアに生息する「イルカンジ(Irukandji)クラゲ」怖い! どう怖いのかは、スージーに教えてもらってください。



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by rivarisaia | 2016-03-31 23:03 | | Trackback | Comments(0)

セプテンバー・ラプソディとV・I・ウォーショースキーのシリーズ一覧

ずっと愛読してきたのに、だんだん面白くなくなって読むのをやめてしまうシリーズ小説が数あるなかで、V・I・ウォーショースキーのシリーズだけは今も面白く読んでいて、よく考えてみるとヴィクとは私が高校時代からのおつきあいである。現時点で長編の邦訳は16冊出ています。16冊目がこちら。
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セプテンバー・ラプソディ』サラ・パレツキー著、山本やよい訳、ハヤカワ・ミステリ文庫

もはや私もヴィクとともに成長してきました。ここまでくると、フィクションの人物なのに、親戚のお姉さんみたいな存在になってくる。小説の中と現実の時間の進み具合が一致してない本もありますが、ヴィクの場合は小説も現実も同じように時が経っているので、かつてはタイプライターで報告書を打っていたヴィクが、PCを導入し、今ではiPadを駆使しているのも感慨深い。

パレツキーが第1作から一貫して描いてきたのは、巨大な権力を前になす術もない人々、そんな彼らのためにひとり捨て身で戦うヴィクの姿ですが、回を重ねるごとに敵が強大になってきている気が。時代を反映しているせいなのか、9.11以降、特にそんな感じがします。もう年で体力落ちたとかいいながらも、あいからわずヴィクはタフで不死身なんですが、そんなヴィクの活躍っぷりを読むと元気が出るので、時には弱音を吐きつつ、そして無茶っぷりをロティやコントレーラス爺さんから怒られつつも、いつまでも頑張ってほしいなー。

最初に読んだ時は、ヴィクの翻訳口調が可笑しくて、友だちと口真似して笑ったりもしたけど、だんだんなれてきた。そんな今では英語でも読むようになりました。

また、V・I・ウォーショースキーのシリーズで個人的に難なのは、邦訳も原書もともにタイトルがまったく覚えられないことです!

もはや覚えようという気もないんですが、順番がわからなくなるので、自分用メモも兼ねて1作目からのタイトル一覧を書いておきますよ。

長編
サマータイム・ブルース(Indemnity Only)
レイクサイド・ストーリー(Deadlock)
センチメンタル・シカゴ(Killing Orders)
レディ・ハートブレイク(Bitter Medicine)
ダウンタウン・シスター(Blood Shot)
バーニング・シーズン(Burn Marks)
ガーディアン・エンジェル(Guardian Angel)
バーステイ・ブルー(Tunnel Vision)
ハード・タイム(Hard Time)
ビター・メモリー(Total Recall)
ブラック・リスト(Blacklist)
ウィンディ・ストリート(Fire Sale)
ミッドナイト・ララバイ(Hardball)
ウィンター・ビート(Body Work)
ナイト・ストーム(Breakdown)
セプテンバー・ラプソディ(Critical Mass)

短編
ヴィク・ストーリーズ(Windy City Blues)
アンサンブル

長編の最新刊は『Brush Back』。邦訳いつ出るかなー。

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by rivarisaia | 2016-03-09 23:59 | | Trackback | Comments(6)

The Marvels

『The Invention of Hugo Cabret(邦訳:ユゴーの不思議な発明)』や『Wonderstruck』のブライアン・セルズニックの新刊。

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The Marvels』Brian Selznick著、Scholastic Press

1766年、難破船でひとり生き残った少年ビリー・マーヴェル。前半400ページほどは、ロンドンの劇場で活躍することになる、ビリーと五世代にわたる彼の子孫の物語が、絵だけで展開します。

そして時は1990年に移り、学校を飛び出してロンドンに住む叔父のもとへやってきた少年ジョセフの物語が、今度は文章で綴られます。

さて、ビリーの一族の物語と、ジョセフの物語はどのようにつながっていくのか、徐々に謎が明らかになっていきます。

イラストだけの最初の400ページが本当にすばらしくて、正直に言うと、テキストパートに突入したとたんに、気持ちが置いてけぼりにされたのも事実です。テキストパートに不満を抱く人々の気持ちもわかる。私も90年代の主人公ジョセフにイライラしたし、途中で明かされた事実には「えー! そりゃないよ!」と文句も言いたくなりました。

だが、しかし。

最後、再びイラストのみで展開する現代のパートがあるのですが、そこを読んだ(見た)ときに、なんだかじんわりしてしまったんですよね。そこには、叶えることのできなかった夢があったから。

児童書として考えてみると、ブライアン・セルズニックはさりげなく難しいテーマをもってきたなーと感じました。最後まで読んだら、もう一回最初のページから読み返してみるといいかも。最初かったるく感じたテキストパートも2度目に読んだ時は印象が変わった。

著者のあとがきにもありますが、ロンドンの叔父さんの家は、実在の「Dennis Severs House」がモデルです。ここ、行きたい!

著者本人が作成した本のトレイラーもいい感じなので貼っておきますね。





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by rivarisaia | 2016-01-26 20:14 | | Trackback | Comments(2)

Everything I Never Told You

想像していた内容とはだいぶ違ったんだけれども、しみじみとよい本でした。

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Everything I Never Told You』Celeste Ng著、Penguin Press

Lydia is dead. But they don’t know this yet.
リディアは死んでいる。でも彼らはまだそのことを知らない。

という文章で始まるこの小説は、1977年、オハイオの小さな町にくらす中国系アメリカ人の一家の話です。

アメリカ生まれの中国人である父ジェイムズ、白人の母マリリン、優秀な兄ネイサン、両親の一番のお気に入りであるリディア、そして目立たない末っ子のハンナ。リー一家は、そこそこ幸せな5人家族のはずでした。

ある朝、リディアが忽然と姿を消し、やがて近くの湖で死体となって発見されます。

冒頭の1文から私は、果たしてリディアを殺した犯人は誰なのか、それとも殺人ではなく事故なのか、はたまた自殺なのか、という謎を解く、ミステリーのような物語なのかなと推測していました。

ところが全然違った。

物語は過去に戻り、リディアが死んでしまった日にいたるまで、家族のそれぞれがどんな人生を歩んできて、どんなことがあったのかを探っていく。大学教授の父ジェイムズはマイノリティであることにフラストレーションを抱えている。出産のために学業を断念し、主婦になった母マリリンは、自分の夢をリディアに託す。両親の夢と希望を一身に背負うリディアの影で、存在感を消されてしまっている兄と妹。

家族ひとりひとりがこれまで抱えてきた問題(そして70年代という時代における、人種差別や女性の社会進出といった事柄が大きく影響している)が、じわじわとあぶりだされていき、最終的にはリディアの死に結びついていく。リディアはどうして死んでしまったのか、それを考えると、とても切なくて泣ける。

ミステリーを期待すると肩透かしをくらうだろうし、読んでいる最中はどんどん重苦しい気分になっていくし、登場人物にイライラしたりもするんですけども、読み終わってみれば、この一家のことがしばらくは忘れられない。幸せになってほしいなあ。



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by rivarisaia | 2016-01-20 23:43 | | Trackback | Comments(2)

2015年これを読まずして年は越せないで賞 受賞作!

いつもは年末にお知らせしているのですが、今回は遅ればせながら、2015年の「これを読まずして年は越せないで賞」のお知らせです!

年末に行われたツイッター会議とか候補作の詳細については以下をどうぞ!


ざっくりと紹介しておきまーす。

I. 児童書部門:『Blackthorn Key』Kevin Sands

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17世紀のイングランドを舞台に、薬剤師の見習い少年が暗号を解読しながら連続殺人事件の謎と錬金術の秘密を解明するというページターナーな1冊。今年の秋に続編が出るそうです!

I-2. YA部門受賞『Six of Crows』Leigh Bardugo(YA)
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例えていうなら、ゲーム・オブ・スローンズの世界でオーシャンズ11の物語が展開するような話で、三部作の第1作目。

・そのほかの候補作
『Nightbird』Alice Hoffman
怪物が棲む森のそばの小さな町に暮らす女の子が主人公。彼女の家族は大昔に魔女に呪いをかけられていて……とおどろおどろしい設定のようだけど、ほんわかした可愛らしいファンタジー。

『Nimona』Noelle Stevenson(YA)
破天荒な主人公Nimonaが活躍する一風変わったアメコミで、全米図書賞最終候補作。

『What We Saw』Aaron Hartzler(YA)
真実を探ろうとする勇気ある第三者を主役にすえた、レイプをテーマにした作品。

(最終候補からは外れた作品)
『A Darker Shades of Magic』V.E. Schwab(YA)
『Most Dangerous』Steve Sheinkin(YA)

II. ノンフィクション部門:『Missoula』Jon Krakauer
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アメフトチームのメンバーがレイプ事件を起こしたのをきっかけに、数々の暴行事件が明るみにでたという事実を追い、性犯罪に対する私たちの認識を改めさせる必読の1冊。

・そのほかの候補作
『So You’ve Been Publicly Shamed』Jon Ronson
最近のインターネットでありがちな、炎上、すなわち、集団による個人攻撃と、加害者や被害者の心理について探るルポルタージュ

『Modern Romance』Aziz Ansari
コメディアンのアジズ・アンサリが社会学者とタッグを組んだ、恋愛に関するユーモラスで真面目な社会学の本

(最終候補からは外れた作品)
『Rising Strong』Brené Brown
『Being Mortal』Atul Gawande
『Pioneer Girl: The Annotated Autobiography』Laura Ingalls Wilder
『Becoming Nicole』Amy Ellis Nutt(*これはしっかり話し合いたい本なので、来年に持ち越し)

III.フィクション(大衆小説)部門:『Inside the O’Briens』Lisa Genova
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『アリスのままで』の著者が書いた、ハンチントン病を抱えた家族の物語

・そのほかの候補作
『The Lake House』Kate Morton
おなじみのケイト・モートン最新作。

『Circling the Sun』Paula McLain
イギリス生まれでケニア育ちの女性パイロット、ベリル・マーカムの自由奔放で興味深い人生を描いた伝記小説

(最終候補からは外れた作品)
『Last Song Before Night』Ilana C. Myer
『Seveneves』Neal Stephenson

IV. フィクション(文芸小説)部門:『A Brief History of Seven Killings』Marlon James
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今年のブッカー賞受賞作。ボブ・マーリー暗殺未遂事件を軸に、ジャマイカの歴史を独特のリズムのある文体で語る長編叙事小説

・そのほかの候補作
『A God in Ruins』Kate Atkinson
ケイト・アトキンソンの『Life After Life』の姉妹編にあたる、語られなかったもうひとつの物語。

『Fates and Furies』Lauren Groff
ある夫婦の結婚生活を、夫と妻のそれぞれの視点から描いた

『The Buried Giants』Kazuo Ishiguro
邦訳は『忘れられた巨人』

(最終候補からは外れた作品)
『A Little Life』Hanya Yanagihara

そして2015年の大賞は、紆余曲折のすえにどんでん返しがありまして、

児童書部門:『Blackthorn Key』に決定しました!

児童書ということもあり、多くの人に読みやすい本でもあるので、英語で何か読んでみたいな、という人にもおすすめですよー。



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by rivarisaia | 2016-01-05 23:36 | | Trackback(1) | Comments(0)

Pioneer Girl: The Annotated Autobiography:大草原の小さな家の誕生秘話

ローラ・インガルス・ワイルダーの「大草原の小さな家」シリーズとリンドグレーンの「やかまし村」シリーズは、子どもの頃の私のバイブルでした。何度読んでも飽きないし、嫌になった時や退屈した時の逃避先であり、ごっこ遊びの際のネタ元でもありました。

その「大草原の小さな家」が、どうやって世に生まれて、どこまでが実話なのか、それを詳しく詳しく研究したすっごい本がこちらです。

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Pioneer Girl: The Annotated Autobiography
Laura Ingalls Wilder著、Pamela Smith Hill編集、
South Dakota Historical Society Press

シリーズの元になったのは、ローラが書いた「パイオニア・ガール」という原稿でした。

本書はその「パイオニア・ガール」を丸ごと掲載し、ひとつひとつの出来事が実際にあったことなのか、脚色されたフィクションなのかを検証し、はたまた登場人物が実在の人物なのか、架空の人物なのかも調査し、さらには歴史的事実なども細かく教えてくれるし、写真も豊富という、まさに「大草原の小さな家」研究の集大成、といった1冊です。

よくぞここまで調べた、すごい!の一言。なにせ、本もデカいし厚いし、重い! こんなに大きな本だとは思わなかったよね……。

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寝っ転がって読んだりできない大きさ。そして注釈の情報量たるや、なかなか全部読み込めない。

とりあえずですね、「大草原の小さな家」の誕生秘話を語るイントロダクションだけでもぜひ読んでください。これまでもローズの伝記等でざっくり触れられてはいますが、本書のイントロダクションはかなり詳細に踏み込んでいます。

はじめはノートに手書きだったローラの原稿を、ローラの娘で作家だったローズが、文章を校正してタイプ原稿を作成し、エージェントに持ち込んだわけです。1930年の春のことでした。

ところが、これが全然売れなかった。

もともと「パイオニア・ガール」は大人向けに書かれたもので、雑誌の連載として売り込もうともしたんだけれども、それもうまくいかず、そこでローズは少年少女向けバージョンを作成し、それを Knopf社の担当者に見せます。すると、Knopf から、8~10才の子ども向けに書き直せば出版できるとの返事が!

ところが出版契約を結ぶ直前、折しもの不況で Knopf の児童書部門の廃止されることになってしまいます。しかし Knopf の担当者が、Harper社の児童書の担当者に原稿を渡してくれたことで、無事 Harper & Brothersから出版が決まったのでした。初版は1932年4月6日に出版されました。

整理すると「パイオニア・ガール」の原稿には5つのバージョンがあります。

(1) 手書きの生原稿
(2) Brandt & Brandt ver.(ローズがタイプしてエージェントに渡したもの)
(3) Brandt & Brandt 校正バージョン
(4) Juvenile バージョン(ローズが作成した青少年版。これを元に現「大草原」シリーズが書かれた)
(5) George T. Byeバージョン(Brandt & Brandt の修正版)

驚いたのはローズの仕事っぷりです。ローズは小説も書いていたけれど、マーケットに合わせて事実を大胆に脚色した「ノンフィクション」も書いてた。ただそのノンフィクションでは、実在の人物の名前や職業だけでなく、性格まで変えちゃったり、ということを平気でやってた。

いいのか、それは……よくないだろ、という感じですが、当然ながらヘンリー・フォードやチャップリンは事実と違うことを書かれて激怒。本が出版できなくなったりもしたみたい。

でも逆に「大草原〜」は、そんなローズの大胆な編集手腕があったから日の目を見たのかもしれません。ローズの腕前はノンフィクションには向いてなかったけど、事実をもとにした読ませるフィクションには向いていた。

出版が決まってから、ローラ自身も、自分の家族の話を元にしたあくまでも「子ども向けのフィクション」という姿勢で書いているので、適切じゃない事柄はさっくり消したりしてますし、複数の人物を合体して一人のキャラクターを生み出したりもしてます(例:ネリー)。

オリジナルの「パイオニア・ガール」自体は、確かに出版がなかなか決まらなかったのもう頷ける内容で、はっきりいうと面白くないのです。でも、このオリジナル原稿が、内容も文章も推敲されて今も世の中に存在する「大草原〜」シリーズになったことが感慨深いし、何より本書が大変に興味深いのは、繰り返しになりますが、オリジナル原稿に対するおびただしい注釈です。

ローラの一家だけでなく、彼らを取り巻くさまざまな人々の人生も追っかけており、庶民の視点でアメリカ西部開拓史を知るのに最適な1冊にもなっている。というか、アメリカの西部開拓史がこんなに身近に感じられる本もなかなかないので、興味のある人はぜひどうぞ。

<おまけ>
日曜日に読むことが許されていた、父さんの本「動物の世界の神秘」は、今ではデジタルで中ページが見られます! デジタルの世界すごいね!

『THE POLAR AND TROPICAL WORLDS』という本で、コチラどうぞ。

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by rivarisaia | 2015-12-26 18:28 | | Trackback | Comments(2)

見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
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