カテゴリ:本( 367 )

東京大学の学術遺産 君拾帖

本日は、世界に誇る偉大なる帳面派の日本代表に間違いなく選ばれるであろう人物の本です。

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東京大学の学術遺産 君拾帖』モリナガ・ヨウ著、メディアファクトリー
※クンは、本来は手へんに君

幕末から明治に活躍した偉人・田中芳男。1838年、信州飯田に生まれ、幕末には博物学者・伊藤圭介に師事してパリ万博に参加したり、日本で初めての博覧会を企画したり、上野に博物館や動物園を作ったり、雑誌や本を発行したり、学校作ったり、挙句男爵の称号ももらって、議員なども歴任したという、なんだかすごくえらい人。

そんな田中は100冊近いスクラップブックを遺しており、それが東京大学に保存されている史料「君拾帖(くんしゅうじょう)」です。

日本の博物学の父と呼ばれる田中芳男ですが、帳面に様々な紙モノを貼り付けるという素晴らしい、素晴らしい嗜好の持ち主でした。私は帳面派の師匠と呼びたい。

幕末から大正5年のじつにおよそ60年間にわたって作成された「貼り交ぜ帖」には、引札、領収書、チラシ、カード、名刺、お菓子や食品の包み紙、ラベル、絵葉書、献立表など、さまざまな紙をびっしり貼り付けられています。日本国内だけでなく、パリ万博に参加した時に蒐集した外国の紙モノもたくさん残されており、貴重な史料となっているわけです。

全ページみたいので、デジタル化されてたらいいのになーと思うのですが(その辺まだ調べてない。されているようなら教えてください)、一部をよりすぐってモリナガ・ヨウ氏が紹介しているのが本書です。

どれもこれも興味深いのですが、いくつか印象的だったものは、

  • 絵花火:火薬が紙に塗られた仕掛けつきの刷り物で、たとえば、大砲の絵の先に線香で火をつけると、砲弾が発射されたかのごとく火が動くというもの。
  • 幕末の領収書(印鑑が黒い):朱肉が一般的になるのは明治になってから。長谷川時雨も「印鑑が赤いのは今風で嫌だ」と嘆いているらしいよ!
  • 缶詰ラベル:エゾジカとかクジラはまだしも、亀肉や鶴肉もある。めでたい缶詰扱いだったのでしょうか。キノコの缶詰のラベルもいい感じです。
  • 日本初の液体目薬「精錡水(せいきすい)」:販売者の岸田吟香は、岸田劉生のお父さん。

それから、田中芳男は「モノに紙をあてて炭などでこすって形を写し取る」ということもたくさんやっていて、月餅や煎餅もこすって「拓」を取ってたらしいんですが、パリの石鹸の「拓」もありましたね……。スルメ拓を集めた『鯣(するめ)帖』も残ってるらしいよ……芳男……。

田中芳男の略歴についてはコチラをどうぞ。

東京大学の田中文庫博覧会関連資料目録のページでは、ページの下のほうに画像があります。

じつは今年伊勢に行った際、田中芳男コレクションがあるという神宮農業館に寄りたかったんですけど、改装中で閉まってたんですよね。残念! 今はもう開いてます。





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by rivarisaia | 2015-12-15 22:52 | | Trackback | Comments(0)

フランス百科全書絵引

ご無沙汰しておりました。わたくしのマシンが次々と不調を訴えてきて、いろいろと面倒をみたり(修理まではいかない)データを整理したりしてました。まだちょっと機嫌悪いみたいよ。

で、写真を整理していたら、懐かしい本が出てきたので紹介します。

『百科全書』とは、フランスの思想家ディドロとダランベールを中心とした知識人たちが20年以上かけて編集、作成した百科事典です。全巻の翻訳は出てないけど、図版を1冊にまとめた巨大な本が出ています。

それがこれだ! ドドーン!
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大きさがわかりやすいように、岩波文庫を上に置いてみました。

フランス百科全書絵引』ジャック・プルースト監修・解説、平凡社

いろいろな機械や道具の図版はもちろん、コレオグラフィーやカリグラフィー、文字、動物の絵、戦艦(帆船)の陣形とか、いろんな図版が出ていて、かなり楽しい。家にあってもいいのかもしれないけど、いかんせん大きすぎる……。絶版のようなので、興味のある人は図書館か古書店で探してみてください。

わたしは図書館で借りたんですけども、カウンターのお姉さんに「すごく重いですけど、これ持って帰れますか……?」と心配されました。そしてわたしが持っていたトートバッグには入らなかった。したがって、雨の日に借りるのは危険な本。

本書の目次は以下のようになっております。
第1部:天然資源の開発(農業、漁業)
第2部:文化(建築・劇場、美術技法、音楽・楽器、文字・書物)
第3部:諸科学
第4部:技術(木材技術、金属技術、繊維技術、皮革技術、陶磁・ガラス技術、主要化学技術)
第5部:社会(上流社会の風俗、軍事技術、日常生活の手仕事)
中ページは図版がメインです。
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こんなレイアウトでページの両端に図版のキャプションが入るかたち。このページは「軍事技術」の「艦隊の戦闘隊形」を紹介しています。参考までに部分的に拡大してみますと、こんな図になってる。

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この調子でじつにさまざまな図版が収録されていて、なんらかの資料にもよさそうだし、ひまなときに眺めるのにもよさそうです。ただし重いけど!!

また朝倉書店からも、12000円とお高い本なんですけども、ディドロ『百科全書 産業・技術図版集』という本が出てます。こちらは89ページに「ねじの製造」って項目があってね、
「ねじは16世紀に現れたが、20世紀までの千年紀に発明された最高の工具」
と書いてありました。VIVAねじ!

百科全書は原書のデジタル版がいろいろなところで公開されているのですが、たとえば大阪の図書館のデジタル画像はこちらで見られます。

さりげなくこうしてフランスネタなのは、今年もツール・ド・フランスが始まってるからでした! 早く梅雨終わらないかなー。


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by rivarisaia | 2015-07-08 20:24 | | Trackback | Comments(2)

The Paper Doll's House of Miss Sarah Elizabeth Birdsall Otis, aged Twelve

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The Paper Doll's House of Miss Sarah Elizabeth Birdsall Otis, aged Twelve
Eric Boman著、Thames & Hudson


1884年、ロングアイランドに住んでいた12歳の少女バーディ・オーティスはペーパードールの家を作りました。


バーディのペーパードール・ハウスが一風変わっていたのは、本物の壁紙や、メールオーダーカタログから切り抜かれた家具やデザインをコラージュして作られていたこと。そのすてきなドールハウスを紹介するのが本書です。

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コラージュのセンスがとてもすばらしいので、いくら眺めていてもちっとも飽きない。子供部屋やダイニング、リビングや寝室、キッチンはもちろん、バスルームに温室もあります。
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この見開きは台所。料理している人が配置されている。床はタイルみたいなデザインになってますね。

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バーディはペーパードールの小物類も種類別にまとめて、丁寧に紙に包んでいました。

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さらにこの本、巻末にポケットが付いていて、その中にペーパードールとドレス一式が入ってるので、切り抜いて実際に遊べます。

唯一この本で微妙なのは、本文のレイアウトがあまりよろしくない点ですね……。フォントや文字組はもう少しなんとかならなかったのかしら。

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たとえばこれ左ページはバスルームの画像で、右ページが文章になっている見開きですが、写真で見ると問題なさそうだけど、実際に文章読もうとするとすごく読みにくいのよね。欲をいえば、文章量もさして多くないので、テキストだけ本の前後にまとめるという構成のほうがよかった気もします。まあでもしかし、絵を眺めるにはじゅうぶんすばらしいですよ!


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by rivarisaia | 2015-06-18 22:56 | | Trackback | Comments(8)

NEST

Twitterでもちらっと言ったけど、読後の余韻がいい感じの児童書。『クローディアの秘密』が重要な1冊としてお話の中に登場します。懐かしい!

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NEST』Esther Ehrlich著、Wendy Lamb Books

1972年のケープコッド。11才のNaomiは、精神科医である父、ダンサーの母、姉のRachelとくらしている。
自然に囲まれ、大好きな野鳥を観察しながら、のびのび過ごしていたNaomiだが、母親が難病になってしまい、一家の生活は大きく変わってしまう……
難病になってしまったことで、精神的にも病んでいくお母さん。よかれとおもったことが、どうも空回りしてしまうお父さん。バラバラになりそうな家族のために、なんとか明るく振る舞おうとしたり、母親代わりをせざるを得なくて、いっぱいいっぱいになってしまう子どもたち。それぞれの立場の気持ちがとてもよくわかるので、大人が読むのにも適してますね。逆に私が子どもだったら、Naomiには共感しても、お母さんやお父さんに対しては「なんで?」って思ったかも。

Naomiの心理描写が巧みで、この手の物語にありがちな「よく出来た子」ではないし、ちょっとした出来事を通じて、彼女のやり場のない怒りや悲しみが痛いほど伝わってくるんですよね。Naomiは、これまた家族に問題アリの少年Joeyと仲良くなるんですけど、この少年のキャラがまたすごくよい。Joey大好き。

物語は途中で衝撃的なことが起こり、最後はNaomiとJoeyの冒険譚のような展開となります。そこそこいい話だな〜とのんびり構えてた私ですが、白鳥ボートのくだりでボロ泣き。作者、すごくうまいなー。イイ話にしちゃいそう場所で、そうくるか……。でも現実ってそういうものだよね。




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by rivarisaia | 2015-05-02 23:58 | | Trackback | Comments(0)

The Girl on the Train(ガール・オン・ザ・トレイン)

まだまだベストセラー入りしてるみたいなので、こちらの本の感想書いておこう。売れているということは、そのうち邦訳もでるとおもいます。

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The Girl on the Train』Paula Hawkins著、Transworld

毎日、電車でロンドンに通勤しているレイチェル。電車はいつも、住宅街の側で信号待ちをするのだが、その際に、ある一軒家を眺めるのが、レイチェルの密かな楽しみになっている。その家には幸せそうな若い夫婦が暮らしていた。

ところが、ある日のこと、レイチェルを信じられない光景を目撃し……


やたらと『ゴーン・ガール』と比べられている本作ですが、女主人公がまったく信用ならない語り手な上に、ぜんぜん共感できないというところに、共通点があるかしら、程度です。

語り手の信用ならない度数はかなり高い。後出しジャンケンもいいところだ、お前、それもっと早く言え、と何度思ったことでしょう。しかもレイチェルは、ええとこれはすぐに明かされることなので書いてしまいますが、アル中です。「もう飲まない」とか言いながら、飲んじゃう。そして酔っぱらっちゃって記憶をなくしたりするもんだから、信用度はさらにガタ落ちです。

どうにもだらしなくて、自分に甘いレイチェル。まったく共感できないどころか、読んでいて、何度となく

レ〜イチェ〜ル〜! あんた、もう何やってんの! バカバカバカ!!


と、すっごくイライラしどおしだったんですけども、レイチェルへの不満がいつのまにか同情に変わり、最後のほうでは、「レイチェル、がんばって!」と応援していた私であった。何なんだ……。レイチェル以外の登場人物もけっこう酷いです。

ところで、これだけ話題になっていると映画化しそうな気もしますが、語り手はもちろん誰も信用できない!という構成が効いているので、映像にするよりも文章のほうが楽しめる作品ではないかと思います。ラストで、事実が明らかになってからが冗長な気もしましたが、ページターナーで楽しめました!
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by rivarisaia | 2015-04-23 23:55 | | Trackback | Comments(0)

Thank You for Your Service(帰還兵はなぜ自殺するのか)

『アメリカン・スナイパー』に関しては、映画原作あわせて、もやもやしたものをずーっと抱えっぱなしなんですが、映画(フィクション)と原作(現実)は関係ない、と割り切れないものがあるからなんですよねえ。うむー。

私には、イラクに行ってた友人・知人が数名いる。

私と彼らの間では、イラクの(あるいは戦争の)話はタブーのようになっていて、唯一、D君とは「今度イラクに行くことになったんだー」「ええ!?」「まあ、たぶん大丈夫だよ」「そう、気をつけてね」というやりとりがあった。ずいぶん前に。

しょっちゅう顔をあわせてるような付き合いであれば、また違うのかもしれないけど、とてもじゃないけど気軽にイラクの話なんて出せないし、向こうだって何か聞かれても当たり障りのないことしか言えないだろう。

幸いなことに、みんな無事に帰ってきたけど、手放しでよかったねと言えるのかどうかすらもよくわからない。見えないところで苦しんでいるかもしれないからだ。『アメリカン・スナイパー』では原作でも映画でも、戦争は主人公の精神面に大きく影響を及ぼしたわけだけれども、そうした戦争の影響、特にPTSDに関して扱った本がこちらです。

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Thank You for Your Service』David Finkel著、Sarah Crichton Books

アフガニスタンとイラクに派遣された兵士約200万人のうち、50万人が精神的なストレス障害に悩まされており、また、自殺者の数は年々増加している。どうしてそうなってしまうのか。戦争に行く前はとてもいい人だったはずの夫が、帰還後は妻に暴力をふるうようになり、自殺を試み、家族は疲弊していく。戦場から平穏な世界に戻ってきたはずなのに、どうしても日常に適応できない。軍もこうした状況を放置しているわけではなく、何とか対策を立てようとしているんだけれども、うまくいかず、出口が見えない。

戦争に対する自分の意見は極力排除するよう努力した、と著者がインタビューで述べているように(アメリカのアマゾンのページにQ&Aがあります)、思想的なことは一切書かれていなくて、帰還兵とその家族、医療関係者などへの綿密な取材から得た事実だけがそこにあり、戦争の代償であるそれらはとても重い。読み終わった後に、しみじみと表紙を見て、このタイトルが胸に突き刺さってくるような気持ちになりました。

こちらの本ですが、『帰還兵はなぜ自殺するのか』(デイヴィッド・フィンケル著、古屋美登里訳)というタイトルで亜紀書房から邦訳が出ましたので、ぜひどうぞ。

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by rivarisaia | 2015-03-27 23:27 | | Trackback | Comments(9)

American Sniper(アメリカン・スナイパー)

アメリカン・スナイパー』の原作である、クリス・カイルの自伝の感想。私は原書で読んだのですが、邦訳も出ています。原書房から単行本で出たときのタイトルは『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』でしたが、映画にあわせて『アメリカン・スナイパー』と改題されてハヤカワから文庫になりました。

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American Sniper: The Autobiography of the Most Lethal Sniper in U.S. Military History』Chris Kyle、Scott McEwen、Jim DeFelice著、HarperCollins刊

内容に賛同するかどうかはおいといて、読んでよかった。同じくシールズのマーカス・ラトレルの『Lone Survivor』よりも読みやすかったです(訴えていることは似てるんだけども)。

ここ最近、イラク戦争をテーマにした小説を読む機会も増えていて、そうした小説の場合、たいてい主人公の兵士は人を殺すことに葛藤を抱えていたり、戦争に不条理さや虚しさを感じていたり、戦いたくないと思っていたりするわけですが、クリス・カイルにしてもマーカス・ラトレルにしても、フィクションとは正反対な主張をするのが興味深いところです。

クリス・カイルはハッキリと「I missed the excitement and the thrill. I loved killing bad guys」と言えてしまう。自分はSEALの一員であり、戦争のために訓練された人間なので、戦いたいし、敵を殺すのが大好きだと書いている。自分に子どもが生まれても、軍隊のほうが重要だし、戦争に行きたくて仕方ない。

戦争の目的は「make the other dumb bastard die. But we also want to fight」とずいぶん率直なんだけども、軍人が戦いたいのは、アスリートが大きな試合に出たいと思うのと同じで、さらに愛国心とも密接に関係している、とクリスは言うわけですよ。

彼にとっての優先順位は、神、国、家族。妻のタヤは「神、家族、国じゃないの…?」と不満なんですが、妻の苦労は理解していても、国とSEALを重視してしまうクリスなのでした。でも彼は真面目な人ではあるんですよね、むしろなぜにこんなに生真面目なのか……。

戦争に行きたい、敵を殺したい、という文章は繰り返し出てきます。戦争における自分の役割を明確に認識していた、というクリスが後悔していることは、救えなかった仲間たちのこと。敵を殺すことについてはあれこれ考えをめぐらしたことなどない。なぜなら罪を裁くのは神だから。

しかしそのいっぽうで「Everyone I shot was evil. I had good cause on every shot. They all deserved to die.」という言い訳を(神様に対して)しちゃうところが、彼の弱さの気がします。でも本人は気づいてないと思う。

敵は、常に「bad guys」で、「savage(野蛮人)」で、「evil(悪)」で、人格はない。むしろそう思わなければ精神のバランスが取れなかったのではないか。クリス自身は白黒はっきりさせたい性格なのだそうですが、そうじゃないとシールズでやってけないのかもな……とも思ったりした私でした。


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by rivarisaia | 2015-03-24 23:50 | | Trackback | Comments(2)

The Shock of the Fall

先日読んだとある児童書が、とても評判がよかった本なんですけど、個人的には今ひとつで、その理由は (1)私の期待値が高すぎた (2)私の読み方が間違っている (3)高く評価されてるのがおかしい、のどれだろうとふと考えたりしてました。

そんなわけで、この本を読む時も、あまり期待しないほうがいいのかも…と余計な心配したんですけど、確かに私の想像とは違う内容だったけど、後からじわじわくる1冊で、とても良い本だった。2013年のコスタ賞処女小説部門受賞作です。

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The Shock of the Fall』Nathan Filer著、Harper Collins

裏表紙にある文章を読むと、どうやら「主人公の兄が死ぬ」というのがカギとなる話らしいと分かるので、ミステリーかサスペンスか、いずれにしてもダークな展開の物語なのかしらと想像したのですが、言っておくけど違います! ダークではあるけど、サスペンスではないです!(重要)

本書は、兄の死が原因で統合失調症に苦しむ少年マシューの物語です。

いかんせん語り手が統合失調症であるがゆえに、口調が独特で、話や時間軸もあちこちに飛んだりするので、最初のうちは状況がよくわからない。お兄ちゃんは病気だったらしいけど、どんなお兄ちゃんだったのか。事故があったようだけど、何故死んじゃったのか。そしてマシューは今何をやっているのか。最初に出てくる人形と女の子の話はいったい何なのか。

それは読んでいるうちにわかってくるんだけれども、散りばめられた謎が明かされることが重要なのではなく、あくまでもこの物語が描こうとしているのは、いつまでも消えない罪悪感を抱え、幻覚に悩まされる日々を過ごしている主人公の心情です。

主人公のつらい気持ちが、本当によくわかる。でも、ひたすら暗いばかりでもなくて、ユーモアもあるし、家族もいい人たちであるおかげで(特にお婆ちゃん!)読んでいるこちらも救われるし、ラストにも希望が感じられてよいです。

それにしても統合失調症の患者の気持ちがよくここまで描けるね…と思ってたら、著者は精神科の看護師なのでした。


●本日のオマケ

この小説にインスパイアされたショートフィルム。監督は Udo Prinsen、絵はHenk Chabot 。


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by rivarisaia | 2015-03-02 23:55 | | Trackback | Comments(0)

カトリック教会の諸宗教対話の手引き――実践Q&A

日本において、カトリックは知名度こそあれ、まったくもってマイナー宗教でありまして、やはり超メジャーなのは仏教や神道。真の意味での信者は少ないのかもしれないけど、伝統儀式といえばやはり仏教か神道。信者じゃなくても、初詣は神社に行くし、葬式では坊さんにお経あげてもらったりするわけですよ。

さて、かような他宗教の行事において、マイナー異教徒はどのように振る舞ったらよいのか、そんな問いに細かく答えてくれる便利な本がこちら! これなかなか面白い。

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カトリック教会の諸宗教対話の手引き――実践Q&A』日本カトリック司教協議会 諸宗教部門編、カトリック中央協議会刊

充実の目次がカトリック中央協議会のサイトに出てますので、まあご覧くださいよ。門松飾ってもいいの? 七五三どうすればいいの? 近所の祭に参加してもいいの? 葬式は? お墓は? といった疑問にぜんぶお答えしてくれてます! すごい! まさに実践Q&A!

キーワードとして、「参加」は駄目だが「参列」はまったく問題ない、という、一瞬屁理屈っぽいことを言うのだが、宗教の衝突で戦争が起きちゃう世の中において、こういう発想は非常に重要なのではないかと思うのだった。

ちなみに、どの質問に対しても大変に柔軟な回答となっており、さすが地域社会と折り合いつけるのが上手なカトリック……2000年続くだけあるわ……と感心いたしました。

Qが88もあるというのに、152ページと意外と薄くて、お手軽な小冊子のような本なんですけど、中味は充実。これは他宗教の方々にもおすすめです。
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by rivarisaia | 2015-02-24 23:59 | | Trackback | Comments(2)

殺し屋ケラーの帰郷

冬休みに読みました! で、その後、この本に出てくる数々の切手がどんなデザインなのか調べてみよう…と思いつつも、私にはその時間が全然ない。どなたか副読本として「ケラーと切手」という切手本を出してくれないですかねー。

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殺し屋ケラーの帰郷』ローレンス・ブロック著、田口俊樹訳、二見書房

殺し屋を引退したケラー。結婚して子どもも生まれて、リフォームの仕事も順調だったのに、不況のあおりを食らって仕事が激減したところに、ドットから電話が……


「殺し屋ケラー」のシリーズは終了したとおもっていたら、まさかのカムバック。しかもケラーが殺し屋に復活する理由が

欲しい切手があるから


ってどうなんですか!!?? 切手蒐集のために請け負う殺し屋稼業。恐ろしいですね、切手蒐集の世界って…(違。

で、本作ですけども、殺し屋稼業の話よりも、切手蒐集の話のウェイトが高くて、個人的にはすんごく楽しかったです。殺しそっちのけで、切手の話がメインだった気もしないでもない……。

ケラーさんは1940年までの切手をコレクションしつつ、なんだかんだで縛りをゆるくしちゃったりしてるんですけど(縛りをゆるくするって、わかるわー)、私のように安い最近の切手をトピカルで集めてる人間と違って、本格的なコレクターなので、そりゃあもうお金かかって大変ですよ。殺しを請け負わないと払えないですよねえ(えっ!?)

一番最初に出てくるオボックの不足料切手ってこんなのかなあ。登場する切手をググるだけでもかなり楽しい、切手好きにたまらない1冊となってます。ですからどなたか副読本を……。

一番最後のエピソード「ケラーの義務」はとてもよかったです。切手蒐集家に幸多からんことを。
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by rivarisaia | 2015-01-21 01:40 | | Trackback | Comments(3)

見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
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