<   2017年 03月 ( 5 )   > この月の画像一覧

Lincoln in the Bardo

短編の名手とよく言われているジョージ・ソーンダーズ(パストラリア、短くて恐ろしいフィルの時代)の初の長編ということで話題の本。非常に風変わりな小説で、最初は戸惑ったけれど私はとても好きです。

b0087556_23274246.png
Lincoln in the Bardo』George Saunders著、Random House

1862年、11歳になる最愛の息子ウィリーをチフスで亡くしたリンカーン大統領は、たびたび息子の墓を訪れてはその亡骸を抱きしめ、悲しみにくれた、という史実を元にして書かれた物語で、読む前の私は正直言うと、

今はあんまりリンカーン大統領に興味ないし、辛気臭そうな内容だけど、それで長編……一体どんな話なのか?

と胡散臭そうな反応をしてたんですが、やけに絶賛されているので興味を持ったのが読むきっかけ。

読み始めは、かなり面食らった。出だしでいきなり「は? これ何の話してるの?」と首をかしげ、

b0087556_23282972.png
3ページ目にして、hans vollman(ハンス・ヴォルマン)という人物と roger bevins iii(ロジャー・ベヴィンズ三世)という人物の会話であることがわかるんだけど、そのあともずっとこの調子。墓場にいる幽霊のセリフだけで構成されている章か、あるいは、

b0087556_23284303.png

こんな具合にどこかの本からの引用のみで構成されている章(この引用箇所は、実在の文章と著者の創作が混在してるそうですよ!)だけで成り立っている小説です。慣れるまでは読みにくいし、ところどころ意味がわからない箇所もあった。でも、面白い。さまざまな断片がより集まって、ひとつの幻想的なシンフォニーを奏でているかのような小説。

セリフのある幽霊だけでもざっと数えて40人。幽霊たちは自分たちが死んでいるとは思っていなくて、自分たちの状態を「Sick-form」、棺桶を「Sick-box」と呼んでいる。ちなみにタイトルの「Bardo」は仏教の概念「中陰」を指し、この世に心残りのある幽霊たちは成仏できずに「死んでから次の世にいくまでの間の状態」にある。

幽霊の中でもメインキャラクターとなる狂言回し的な存在は、前述のハンス・ヴォルマンとロジャー・ベヴィンズ三世、そして牧師のエヴァリー・トーマスの3人。幽霊たちの姿には生前の後悔が反映されるらしくて、ハンス・ヴォルマンはほぼ裸で巨大なナニが勃起している状態だし(私「へ!?」となって2度読み返しました)、ロジャー・ベヴィンズ三世はいくつもの目と鼻と手(つまりは感覚器官)を持ち、牧師は髪の毛が逆立ち、恐怖で驚愕した表情をしているのだった。

3人のうち、後に明らかになるんだけれども、牧師は例外的な存在だったりする。そしてこの牧師の恐れや献身がとても心に残る物語でもあった。

さて。

通常、ウィリー・リンカーンのような小さな子供は、墓地にやってきても留まることをせずにすぐに「行って」しまう。ところがウィリーはいつまでも留まっていて、父が来るからといって去ろうとしないのだった。一方で幽霊たちは、息子の死を悼むリンカーン大統領の姿に心うたれる。

ウィリーをはじめ、幽霊たちは果たして無事に成仏できるのか、というのが大きなあらすじだけど、そこに、それぞれの幽霊たちの人生や、リンカーン大統領夫妻のエピソード、そして当時真っただ中にあった南北戦争の状況説明などが織り込まれていて、重層的な物語になっている。

同じ晩のことなのに、満月だったり月がなかったり、記述にバラつきがみられる章も興味深いし、死後の世界で起こる幻想的な事象についても意味合いを深く考えてしまう。そして何よりウィリーの死とリンカーン大統領の悲しみが、南北戦争における多くの若者の死と彼らの親の悲しみと重なりあうところは、なんともやりきれない。

本作はオーディオブックにも力を入れているみたいで、著者本人をはじめ俳優、作家など含む総勢166人のキャストが参加しているらしいので、こちらもいつか聞いてみたい。レイアウト的にはKindleよりも紙の本がおすすめですが、辞書で調べたりするのはKindleのほうが便利なので、両方欲しい本かも。

本作はさっそく映画化権が売れたっぽいけど、映像化は難しそうだし、だいぶ小説とは趣が変わった感じになりそう。

また余談ですが、これ読む前は興味なかったリンカーン大統領について、もう少し調べてみようかなと今思い始めてるところです……。

[PR]
by rivarisaia | 2017-03-23 23:30 | | Trackback | Comments(0)

All Things Cease to Appear

単純なミステリーかと思いきや、予想とはだいぶ違った趣の小説でした。表紙は2種類あります。

b0087556_22174238.png
All Things Cease to Appear』Elizabeth Brundage著、Knopf

ニューヨーク州の田舎の、元農場の一軒家に越してきた家族。ある冬の日の午後、夫のジョージが帰宅すると、妻のキャサリンが斧で惨殺されていた。幸いなことに3歳になる娘は別の部屋にいて無事だった。犯人はいったい誰なのか。

農場にかつて住んでいた家族の話から始まって、序盤はかなりスローだし、会話文にクオテーションマークがないタイプの文章なので慣れるまで読みにくいかもしれないけど、やがて中盤あたりからじわじわと不気味さが増していき、背筋がうっすらと寒くなる。

この一軒家では以前にも事件があり、そのせいかどうやら幽霊が出るようなのだ。でも幽霊の存在を感じているのは、抑圧されて過ごしている妻だけで、夫はまったく気づかない。妻の不安は増していく。このあたりでゴシックホラー的な展開になるのかなと匂わせておいて、途中で犯人が判明してから物語は一気にサイコ・サスペンスな方向に。

事件が一応の解決をみるのに20年以上の月日が流れるのだけれど、果たして犯人は逃げおおせてしまうのか、いったいどうやって作者はこの事件に落とし前をつけるのか、途中から気になってしかたなかった。

読み終わってみると、ミステリーというよりは、サイコホラーの色合いが強く、また、壊れてしまったふたつの家族や何組かの夫婦のあり方の話でもあり、抑圧されて居場所を奪われた女性たちの悲劇でもあったのだなあと思う。

[PR]
by rivarisaia | 2017-03-21 22:24 | | Trackback | Comments(0)

ワイルド・シティ


b0087556_20430880.png
ワイルド・シティ(迷城)』監督:リンゴ・ラム/林嶺東

かつて警官をしていたマン(ルイス・クー/古天樂)は、今はバーを経営しているんだけれども、ある晩、店で酔いつぶれてしまった女性(トン・リーヤー/佟麗婭)をほんの一晩泊めてあげるつもりで義母のマンションに連れていったことから事件に巻き込まれてしまう。

この女性は何かヤバいことに関わっている人物のようで、翌日になって何者かが女性を連れ去ろうとし、彼女の車からは大金の詰まったスーツケースが出てくる。この金と謎の女をめぐって、マンの異母弟チュン(ショーン・ユー/余文楽)は、香港のチンピラや台湾の殺し屋チームに狙われることになる。

弟チュンは大金を目にして「うっわー、これだけあったらお母ちゃんに楽させてあげられるわー、ノドから手が出るくらいほしい」と思うわけですが(わかる、わかる)、元警官の兄貴マンは「やばい金に手出したらダメ、絶対!」と言う。で、まあ兄貴が正しいんですけどね。金に目がくらむとロクでもないことになる、という話です。

ヤバいビジネスを手がけている黒幕は、台湾の殺し屋をチームで雇っているのですが、鑑賞後に劇場でバッタリ会った友だちと「コストパフォーマンスを考えるなら、大陸にはもっと安い人材がいたのでは?」という話になったんですけども、台湾から大陸に流れていった根無し草の彼らは、大陸の人材よりももっとやっすい命だったのでしょう……などと考えると泣ける。帰る故郷もないんだよ。そんな台湾の殺し屋のひとりを演じていたのは、ジョセフ・チャン/張孝全でした。

[PR]
by rivarisaia | 2017-03-15 20:44 | 映画/アジア | Trackback | Comments(0)

トリプルX:再起動

ハタと気づいたら、観てから1週間以上も経っていましたが、頭カラッポ状態で鑑賞できて(ホメてます)、とにかくバカっぽくて(ホメてます)、やたらと気分が高揚する映画です。サイコー!

b0087556_20222104.jpeg
トリプルX:再起動(xXx: The Return of Xander Cage)』監督:D・J・カルーソー

いちおう『トリプルX』(1作目)と『トリプルX ネクスト・レベル』(続編)に続く第3作目なのですが、前の2作を観てなくても全然平気。私は前2作、うろ覚えな上にたぶん「ワイルド・スピード」シリーズのどれかのエピソードとごっちゃになったりしてたけど、まるで問題なかった。

Xゲーム界のカリスマ、ザンダー・ケイジ(ヴィン・ディーゼル)が、国家安全保障局のシークレット・エージェントとして活躍する、というのが基本的なあらすじ。世界中の人工衛星を自在に操ることができるマシンを奪回せよ、というのが今回の任務です。

本3作目で特筆すべきはとにかくキャストが豪華なことで、男性陣にはドニー・イェンとトニー・ジャーがいて、動きが早すぎてカメラ追いついてないよ! きゃーかっこいい!という感じですし、女性陣には「べっぴんさん」ことディーピカー・パードゥコーンに、ルビー・ローズに、ニーナ・ドブレフがいる! 眼福! やだもう鼻血出そう。

b0087556_20223553.png
無駄のないスピーディーな動きのドニーさんとトニーさんのおふたり。


b0087556_20313642.png

べっぴんさんことディーピカちゃん、超絶かっこいいルビー姐さん、ドジっ子メガネ娘のニーナたん。

今回のキャストそのままで、4作目作ってほしい!と心の底から思いましたよね。クラッカー鳴らし放題の応援上映やっても楽しそう。少なくともわたしは観ている最中、心の中で何度もクラッカー鳴らしてましたYO!



[PR]
by rivarisaia | 2017-03-13 21:31 | 映画/洋画 | Trackback | Comments(0)

ドクター・ストレンジ

最近の私はアメコミの実写版にまるで興味がなくなっているので、さして乗り気じゃない状態で観ました。が、思ったより楽しめたし、酔う人がいると聞いていた映像にも酔いませんでした(ココ重要)。

b0087556_16023350.png
ドクター・ストレンジ(Doctor Strange)』監督:スコット・デリクソン

天才外科医のドクター・ストレンジが交通事故にあい、思うように動かなくなった手を治す方法を求めてネパールへ行き、謎の導師エンシェント・ワンのもとで修業を重ねて不思議な力を身につけるが、はからずも闇の魔術を手にした敵と戦うことになり……

というあらすじ。

どこでもドアのような術で勝手に前の職場(病院)に現れて、同僚(元恋人)に無茶をお願いしたり、意思のある役立つマントを手にいれたり、図書館の司書の兄さんが愛嬌あったり、というのがコミカルで面白かった点。ぐるんぐるん回る風景も大変にそして、ティルダ・スウィントンのエンシェント・ワンが素敵だった。

原作ではチベットの老人男性であるエンシェント・ワンを、白人女性が演じることで批判されていたことは知っていて、ホワイトウォッシュという指摘もとてもわかるのです。しかし同時に、そもそも原作の、ミステリアスな場所といえばチベット、そして何か教えてくれる偉い人といえば白髪でヒゲの長いアジアの老人男性というのも、今まであまりにありがちな設定でまたなの!?となってしまうので、ケルト人の女性って新しくていいね、と思ったんですよね。難しいね。

[PR]
by rivarisaia | 2017-03-07 16:09 | 映画/洋画 | Trackback | Comments(0)

見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
プロフィールを見る