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見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
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先日書いた通り、ついにクロフツの『樽』を読んだので、こちらの本でずっと読まずにいた「樽」のページも読むことができました。

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ミステリマップ 名探偵たちの足あと』桜井一著、早川書房

ミステリマガジンに連載されていた「ミステリマップ」を1冊にまとめた本。ミステリマップは、推理小説の舞台となった場所の地図をイラストレーターの桜井一さんが細かく描き起こしたものです。たとえば、マルティン・ベックのストックホルム(『笑う警官』より)の地図はこんな見開き。

ミステリマップ 名探偵たちの足あと_b0087556_22400475.jpg

マルティン・ベックは私の中では哀愁漂う枯れた感じのおっさんなのですが、人によってその人なりのベックが存在するだろうからそこはまあいいや。グーグルマップでささっと検索できる現在と違い、昔は小説を読みながら地理関係を把握するのはなかなか手間でした。そういう意味で、こういう地図本はなかなか便利。

地図のほかに、各作家(作品)にまつわるエッセイが挟み込まれています。エッセイの著者は表紙に一覧が出てますが、たとえばマルティン・ベックのエッセイは「ストックホルムの光と影」というタイトルで高見浩さんが執筆されています。

地図の数は全部で25。最後の25番目が『樽』で、地図はロンドンとパリの2種類。そして鮎川哲也さんが「『樽』のアラ探し」というエッセイを書いています。

この本も父の本棚にあったもので、当時中学生くらいのわたしは時々パラパラ眺めたりしていたのですが(もちろん『樽』以外のページ)、やっと地図を確認してエッセイも読んだ。そしたら、クロフツはいくつかのケアレスミスをした、とあって、ある人が気づいたミスが指摘されてたんですけど、私は樽の行方に気を取られてて全然気づかなかったよね……。おまけに鮎川さん自身もおかしな点を見つけたものの、あとで読み返したらどれかわからなくなったとのこと。『樽』の新訳版は有栖川有栖氏が解説を書いてるので、私ももう1回メモ取りながら読んだほうがいいかも。



by rivarisaia | 2020-01-13 23:00 | 書籍 | Trackback | Comments(3)

樽:クロフツ

今年のお正月休みは庭の雑草を抜くことしかしなかった。それ以外はアマゾンプライムで映画を1本観ただけ。本はまったく読まずに過ごして、休み明け、今年最初の読書が『樽』です。

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』F・W・クロフツ著 宇野利泰訳 新潮文庫

やけに年季の入った文庫なのは、親の本棚にあったものだから。小学生の頃、なんだか気になる本だけど難しそうなので「いつか読もう」と思っていて、やがて中学生、高校生になり、裏表紙の「推理小説史上に光彩を放つ不朽の名作」という一文にへええ!となりつつも、他のミステリを読むのが忙しく、あとまわしにしていました。

しかし『樽』はいつもわたしの頭の片隅にあった。『樽』といえばクロフツ、クロフツといえば『樽』。なんか有名な話なんでしょ、でもいつか読むつもりなのでネタバレどころかあらすじさえも詳しく知りたくない。そういう強い気持ちで、数十年にわたって『樽』について言及している文章は読まないように心がけて生きてきました。

その甲斐あって「死体が入ってた樽がある」ってことしか知らないという、見事にまっさらな状態で読むことができた。感無量です。えらい、自分!!

ざっくりしたあらすじだけ書きます。未読の人のために内容には深くふれません。


ロンドンに送られてきた樽から金貨と死体が出てくる。驚いた海運会社が警察を呼ぶが、何者かによってその樽は持ち去られてしまう。
やがて樽は再び発見され、ロンドン警視庁の警部がパリ警察本部と協力して事件を捜査することになる。


1914年という舞台設定で、翻訳自体も古いけどぐいぐい引き込まれて一気に読んじゃった。ロンドンとパリをいったりきたりする樽の行方に混乱し、警部たちとともに「どういうことなんだ!」と頭をかかえることに。途中で何が何やらわけわからなくなってきたとことで「まとめ」が出てくるという親切な構成なので大丈夫(メモを取りながら読むとさらに頭が整理される)。

ふたりの警部が地道に証拠を探していき、ひとつひとつ謎が解けていく過程がとてもわくわくするのですが、第三部の新たな推理展開は想像してなかったのでちょっとびっくりしました。しかしここでも、ひとつひとつ疑問が解決していきスッキリする。大変に楽しい。

クロフツは『クロイドン発12時30分』などのフレンチ警部ものはむかーし読んだ記憶があるんですけど、だいぶ忘れてるので読み返してみよう。


by rivarisaia | 2020-01-10 01:03 | 書籍 | Trackback | Comments(2)
わたしが審査員で参加している年末恒例、渡辺由佳里さん主催の「これを読まずして年は越せないで賞」今年も無事に決定しました!第11回なんてびっくりしちゃう。今年の候補作リストはこちらです。

まずは各部門の優秀賞。

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児童書部門 優秀賞『A Tale of Magic…』Chris Colfer

著者はドラマ『glee/グリー』にも出演していた俳優のクリス・コルファー。じつは小説家としても才能があって、児童向けファンタジーシリーズ「ザ・ランド・オブ・ストーリーズ」は人気があり、邦訳も出ています。こちらは彼の新しいシリーズ1作目。魔法が禁止されている世界が舞台で、女性は本を読んではならず、家庭に入るのがよしとされている南の王国で親に内緒で読書を楽しんでいる少女が主人公の楽しいファンタジー。

次点は『The Remarkable Journey of Coyote Sunrise』Dan Gemeinhart。交通事故で母親と姉妹が亡くなってから、父親と一緒に中古のスクールバスで旅をしている少女が主人公。しかし、わけあって何としてでも故郷に帰らなくてはならい事態が発生して……という話です。ちょっと泣ける…。


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YA(ヤングアダルト)部門 優秀賞『With the Fire On High』Elizabeth Acevedo

子育てしながら学校に通うシングルマザーの高校生が主人公。もともと料理が好きだった主人公が、学校で選択した料理の授業を通じて挫折もしつつ成長していく話で、元気が出るし、料理もおいしそう。主人公はラテン系の黒人なんだけれど、アフリカ系アメリカ人との違いも描かれていて、そこもおもしろいところです。

次点は『Sadie』Courtney Summers。妹を殺した犯人を探しだそうと主人公が孤独に奮闘する。MWA賞(エドガー賞)受賞作。前に書いた感想はこちら


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ノンフィクション部門 優秀賞『Catch and Kill』Ronan Farrow

ワインスティーンの事件の取材の背後ではいったいどんなことが起きていたのか、「#Me Too」のきっかけとなった事件はじつはハリウッドの映画界にとどまらず、大変に根深い問題だったのだということがわかって、衝撃を受けた1冊です。こちらはいずれ邦訳が出ると思いますので、英語で読めない人はそちらをお待ちください。


次点は『Invisible Women』Caroline Criado-Pérez。以前書いた感想はこちら。女性に関するデータがいたるところで圧倒的に不足しているため、デザインやシステムにおいて不具合が出ているという「データ・バイアス」に関する、目からウロコの1冊。多くの人にぜひ読んでほしい。


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フィクション(ジャンル小説・大衆小説)部門 優秀賞『The Winter of the Witch』Katherine Arden

第一作『The Bear and the Nightingale』、第二作『The Girl in The Tower』につづく「Winternightトリロジー」の完結編。ロシアの民話や歴史を織り交ぜて描かれた壮大なファンタジーなので、3作通して読んでほしい作品です。モスクワ大公国とかクリコヴォの戦いも出てきて、私はこのあたり詳しくないのですが、こうした歴史に詳しいとさらに面白さが増しそう。

次点は『Where the Crawdad Sing』Delia Owens。アメリカ南部の沼地が舞台。外の世界からは孤立して、自然の中でひとりで暮らしている少女が成長していく話でミステリーやロマンスの要素もありつつ、驚きと納得が入り混じるようなラストが待ってます。映画化の話があるし、かなり売れた本なので邦訳も出そう。


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フィクション(文芸小説)部門 優秀賞 『Once Upon a River』Diane Setterfield

『13番目の物語』が邦訳されているダイアン・セッターフィールドの新作。テームズ川沿いの村にある宿屋兼酒場「ザ・スワン」。ある晩、大怪我を負いずぶ濡れになった男性が運びこまれる。その男性が抱えていた「人形」は死んだ少女だったのだが、確かに死んでいたはずの少女はのちに息を吹き返す。その不思議な出来事を中心に、さまざまな人の物語が数珠繋ぎのように連なっていくなんだか不思議な小説です。じっくり腰をすえてのんびり読みたい1冊。

次点は『The Testaments』Margaret Atwood。説明するまでもなくアトウッドの『侍女の物語』の続編。『侍女の物語』ほどのインパクトはなかったけど、さすがにアトウッドは上手。今年の話題作でもありました。


そして今年の大賞は『Catch and Kill』に決定!!
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やはり今年はこれ絶対に読んだほうがいいおすすめの1冊。「Me too」ってなんだよと、ちょっとバカバカしく感じている人も、この事態がどれほど深刻なことなのかわかると思います。

審査の様子は由佳里さんがTogetterにまとめてくださったので、そちらもどうぞ!



また来年もよい本がたくさん読めますように!!



by rivarisaia | 2019-12-30 14:01 | 書籍 | Trackback | Comments(0)
2019年ブッカー賞ショートリストで気になっていた本。トルコの作家エリフ・シャファクの11作目の小説で、物語のスタート時点で主人公が殺されて死んでいます。

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10 Minutes 38 Seconds in this Strange World』Elif Shafak著、Viking

心臓が止まっても少しの間だけ脳は動いているらしい。タイトルの10分38秒というのはその時間のこと。殺されてイスタンブール郊外のゴミ収集容器に捨てられたヒロインの娼婦テキーラ・レイラが走馬灯のように自分の人生を思い出す最後の10分38秒間。

小説は二部構成になっていて、前半はレイラの波乱含みの人生がトルコの社会的・歴史的背景とともに描かれ、また彼女にとってかけがえのない存在となる5人の大切な友人たちのエピソードが挿入されます。

1947年、保守的な父親が支配する封建的な家庭で、第二夫人の子供として生まれたレイラは、子供の産めない第一夫人の子として育てられます。この前半のレイラの人生がつくづく辛い。家父長制の犠牲となり、性的虐待や性的搾取の被害者になり、ようやく幸せをつかんだのもつかの間、悲劇が起きて挙句の果てに殺されてしまう。

だけど人生は辛いばかりでもなく、きらきらした宝石のような瞬間や幸せなひとときがあるし、なによりレイラには5人のすばらしい友人がいるのでした。その5人とも社会ではちっぽけな存在として生きているところはレイラと似てる。存在は小さいかもしれないけど、とても大きな心をもった人たち。

謎の人物に殺されたレイラ(犯人の正体はのちに明かされる)は、薄れていく記憶の中で友人たちに自分を見つけてもらって、すてきなお葬式をしてもらいたいなと願う。それがこの小説のプロローグになっているんだけども、はたしてレイラの遺体は警察に発見されてモルグに運ばれ、駆けつけた友人たちの願いもむなしく、親族以外には遺体は引き渡せないという規則のもと(そしてレイラの家族は遺体の引き取りを拒否する)、無縁墓地に葬られてしまう、さあどうしよう?というのが小説の後半です。

この後半の、なんとかしてレイラをきちんと葬ってあげたい!という友人たちの奮闘というか遺体奪還作戦が、前半とは雰囲気が変わって、悲しくもどこかおかしくて泣きながら笑ってしまうような顛末になっています。最高の5人は、薬屋のサボタージュ・スィナン、トランスジェンダーのノスタルジア・ナラン、ソマリアのジャミーラ、小人のゼイナブ122、歌手のハリウッド・ヒュメイラ。あとおまけで、猫のミスター・チャップリン。

著者のノートによると、キリヨスにある墓地は実在の場所。そして小説で重要な出来事として描かれる、1977年のイスタンブールのメーデーの虐殺も実際にあったことです。また、1990年まで、被害者が娼婦だと証明できた場合に強姦した者に対する処罰が軽減されるという刑法第438条が存在していました。セックスワーカーに対する性的暴行が増加し、国内でさまざまな抗議活動が行われ、この法律は廃止されたのだそうです。




by rivarisaia | 2019-12-10 22:18 | 書籍 | Trackback | Comments(0)
11月上旬は、そういえばこの本を読んで戦慄していたのだった。

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Catch and Kill: Lies, Spies, and a Conspiracy to Protect Predators
Ronan Farrow著、Little, Brown and Company

セクシャルハラスメントや性暴力被害を告発するムーブメント #MeToo については今更説明するまでもないと思いますが(よくわからない人はとりあえずWikipediaを読もう)、その#MeTooの大きなきっかけとなったのがハリウッドの有名プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタイン(ハーヴィー・ワインスティーン)によるセクシャルハラスメントと性的暴行事件でした。

ワインスタインといえば映画ファンなら誰もが知る人物であり、ミラマックスの設立者で、数々の有名な映画をプロデュースしていて、まあ以前から作品をカットしまくって編集するので悪名高い人ではあったのですが、まさかその権力を悪用して30年にもわたりこんなに恐ろしく酷いことを多くの女性に行っていたのはあまりにショックで、考えるだけで吐き気がするほど。被害者は社員や女優、モデルなど、身近な女性に手当たり次第といった感じで、いったいどうしたらこんなタガが外れたことができるのか。

そのワインスタイン事件の被害者たちに取材をして、ニューヨーカー誌で告発記事を発表したのが、ローナン・ファローです。

彼の記事以降、セクシャルハラスメントの問題は他の業界や企業にも飛び火して、じつは世界のあちこちで被害にあっている女性がいまだに大勢いるということが改めて認識されたのでした。ほとほと嫌になるけど、被害が明るみに出ることは状況改善の第一歩になるはず。

さてそのローナン・ファローがワインスタイン事件の被害者たちの取材をすることになったきっかけから、取材中にどんなことが起きたのかという背景を克明に記したのが本書です。

あらすじについてはニューズウィーク日本版の渡辺由佳里さんの記事をどうぞ。



いきなり出だしから怪しげな人物が登場し、にわかには信じがたい出来事が次々に起こります。ローナンは「マジで身辺に気をつけろ」「銃は持っているのか」などと忠告を受け、謎の人物から尾行され、信じていた人には騙され、そもそも取材を命じたNBCの上司からはのらりくらりと邪魔された挙句に契約まで切られる。あのニューヨーカーの記事の裏ではこんな波乱万丈なことがあったなんて知らなかったよ。ここまでさんざんな目にあい、先行きまったく不透明でめちゃくちゃ不安な中でよくローナン・ファローはくじけなかったと心から尊敬します(かなり不安になっていたのは事実で、とても同情した)。

NBC社内の権力者たちの腐敗っぷりも衝撃的なんだけれども、正義のために勇気をもって行動する人たちも存在するのが救い。NBCの関係者で唯一まともだったのはローナンと一緒に現場にいたプロデューサーのリッチ・マクヒューだけ。ワインスタイン側が雇ったイスラエルの民間諜報機関の関係者にも、正義心からリークをする人が現れたり、当初ローナン・ファローを尾行していた探偵チームがじつは案外いい人たちだったことが判明したりして、そこは世の中すてたもんじゃないなという気持ちになりました。

あらすじだけみると、スパイ小説のようで映画化したらいいのにって思う人も多そうだけど、実際に起きている事件が反吐がでるほど最悪なのでうかつに映画なんて言えないくらい。たとえばイタリア人モデルのアンブラさんの件も、わたしは何が起きたのかは知っていたのに、改めて本書で読んだら彼女の気持ちが切々と伝わってきてつらすぎて涙出た。

ほかにも性被害に言及されている箇所は読んでいて非常につらいものがあるので、フラッシュバックなどの心配がある人は注意が必要です。また本書ですが、文藝春秋から邦訳が出版される予定とのことです。



by rivarisaia | 2019-11-20 00:32 | 書籍 | Trackback | Comments(0)
Where the Forest Meets the Stars:星からやってきたという少女_b0087556_21383792.jpg

Where the Forest Meets the Stars』Glendy Vanderah著、Lake Union Publishing

母を亡くして、自身も乳がんの手術を乗り越えたばかりのジョアンナ(ジョー)は、大学院で鳥類学を研究しており、鳥の巣のリサーチのため夏の間をイリノイの田舎で過ごしていた。早朝から夕方まで孤独に作業するジョーの前に、ある晩不思議な少女が現れる。

アーサ(Ursa)と名乗る少女は、5つの奇跡を見るために宇宙から地球にやってきたと話す。

少女の話を到底信じられないジョーはシェリフに通報するが、少女は身を隠してしまう。その後、ふたたび姿を表した少女をしぶしぶ家に泊めるジョーは、謎の少女について近隣に住むゲイブに相談するのだが……


という大まかなあらすじだけしか知らずに、どっちの方向に進むのか全然わかんない状態で読みました。たぶんその方がいいかも。

アーサは、果たして宇宙人なのか、そして5つの奇跡を目撃したら星に帰っちゃうのか、どうなるのでしょう。それは読んでのお楽しみ。

サイエンティストであるジョーも彼女の周囲の人たちも、宇宙人話は到底信じられないので、行方不明者リストを当たってみたりもするんだけれど、アーサに似た少女の届けは出ていない。最初に呼んだシェリフもあまり助けにならず、かといって少女を放ってもおけずに仕方なく家に泊めることになってしまう。しかし見ず知らずの未成年を家に泊めるというのは善意であっても犯罪になってしまうため、ジョーと彼女に協力することになるゲイブの二人は大きな問題を抱えることになります。

それぞれトラウマを抱えて孤独に生きてきたジョーとゲイブなのですが、年齢の割には聡明なアーサに興味を持ち、またアーサもジョーとゲイブにとても懐いてしまい、3人はまるで家族のようにどんどん離れがたくなっていきます。しかしそこで予想もしない事態が発生するのでした。

私の想像とは全然違う展開だったし、最後のほうがやや急ぎ足で、ちょっと不要かなと思う部分もあったけど、面白く読みました。ジョーの親友タビーが最高にすてきなキャラクター。もっとタビーが出てきたらいいのにと思うくらい大好き。こんな友達がいていいなあ! というか、むしろタビーのような人になりたいものです。


by rivarisaia | 2019-11-01 21:45 | 書籍 | Trackback | Comments(0)
The Boy At the Back of the Class:クラスにやってきた難民の子_b0087556_22351247.jpg

The Boy At the Back of the Class』Onjali Q. Raúf著、Hachette Children's Group

ずっと空いていた教室の後ろの席、ある日、アフメットという少年が座るようになった。
同じ8歳なんだけど、とても変わってる。全然しゃべらないし、笑わないし、お菓子もあまり好きじゃないっぽい。
なんかね、アフメットって本物の戦争から逃げてきた難民なんだって!


Waterstones Children’s Book Prizeの2019年度受賞作。日本はまた少し事情が異なるけど、難民問題について子供が考えるのにとてもよい児童書です。

主人公が、仲良しの友人トム、ジョシー、マイケルとともに、クラスに新しく入ってきた「謎の少年」と仲良くなろうとするというのが前半。その少年はじつはシリアからの難民でした。トラウマを抱えて言葉もわからない国にやってきたばかりで興味津々の子供たちに急に距離を詰められると本人が傷ついてしまう。そこで最初は適切な距離感を保ちつつ、相手の気持ちを尊重し、本人が話す準備が整うまであれこれと詮索せずに、ゆっくりと段階を踏んで仲良くなっていきましょう、ということが丁寧に描かれています。ここの流れがとてもよい。

理解ある大人ばかりではなく、難民に対して悪感情を抱く大人やいじめをする子供も登場するのですが、主人公たちと難民の少年は次第に友情を育んでいきます。ところが。

ある日、主人公は学校へ向かうバスの中で「政府が国境を閉めて難民の受け入れなくする」と大人が話しているのを耳にするのです。

それは大変! 行方がわからなくなっているアフメットのお父さんやお母さんが、たとえ見つかったとしてもイギリスに来られなくなっちゃう!

そこで主人公たちは、なんとかしようと作戦を立てます。これがとてもイギリス的。ネタバレしますが、エリザベス女王に手紙を書いて、本人に(!)渡そうというものなのですよ。果たしてうまくいくのか……というのが後半の物語です。オチも含めてなかなかステキで面白かった。日本で天皇に直接話しに行っちゃおう!みたいな展開の児童書があってもいいんじゃないかと私は思うんですけど、日本はそういうのやらないもんね。

もうひとつ面白いというかよくできているのが、最後の方になるまで主人公の性別も名前も明かされないこと。そして終わってからよくよく考えると、主人公もその友達もみんな生粋のイギリス人なのではなく、親が移民だったり、おばあちゃんが世界大戦中の難民だったりする。この辺りの設定もとてもうまいなと感心しました。



by rivarisaia | 2019-10-21 22:44 | 書籍 | Trackback | Comments(0)
Sadie:2019年 MWA賞(エドガー賞)YA部門受賞作_b0087556_23444294.jpg
Sadie』Courtney Summers著、Wednesday Books

2019年 MWA賞(エドガー賞)YA部門の受賞作です。いやあ、いい本だと思うんだけども、どんよりと大変重苦しい気分になりますね……。トリガー・ウォーニングとしては、性的虐待や小児性愛、バイオレンスなど。

コロラド州コールドクリーク。そこで生まれたら、よほどのことがない限り一生そこから抜け出せないような貧困にあえぐ小さな町。セイディは母親と妹のマティとともにトレイラーパークで暮らしていた。セイディの母親は麻薬中毒のシングルマザーで、男友達もころころ入れ替わっていて子供の世話をせず、6歳年の離れた妹を育ててきたのはセイディだった。

ある日、マティが遺体で発見される。

しかし警察の捜査はおざなりで終わり、意を決したセイディはみずから犯人を探し出すべく、町を出た。

いっぽう、ラジオパーソナリティのウエスト・マックレイは、アメリカの忘れ去られた小さな町を取材していた際、マティの事件について耳にする。セイディの身を案じる女性からの依頼もあって、ウエストはセイディの足取りを追うことに決め、その経過をポッドキャストで配信しはじめる。

セイディ自身が語る出来事とウエストのポッドキャストが交互に描かれるという構成になっていて、セイディが語らなかったこと(語れないこと)をウエストのポッドキャストで補完するような形式です。

たった一人でほんの小さな手がかりを元に、ボロボロになりながら犯人を探そうとするセイディのパートは、ハードボイルド小説のようでもあり、西部劇のようでもあるとはいえ、彼女がこれまで経験してきた虐待や一生懸命守ってきたマティへの気持ちなどを思うととてもつらい。そしてそんなつらい目にあってきたのに、まだこんなひどい仕打ちを受けないといけないんですか……。どうしてですか。犯人はとんでもないクソ野郎だし、犯人にいたるまでに遭遇する人たちも、いい人の割合よりも酷い人が多い。

セイディのパートでヒリヒリと痛んだ心を、ウエストのポッドキャストの章で出来事を客観的に見ることで少し落ち着かせるという読書でした。

ラストがとても切ない。ある意味でオープンエンドなんですよ。どう考えても絶望の可能性が高そうだとしか私には思えないんだけども、わずかでも希望は残っているということなのかな。できればそう願いたいけど、どうだろうか。

オーディオブックを試聴してみたら、ポッドキャストの章がとてもいい感じでした。もしかするとオーディオブックのほうが入り込みやすいかもしれません。



by rivarisaia | 2019-10-06 23:50 | 書籍 | Trackback | Comments(0)
すっごく面白いです。目からウロコの1冊なので、みんな読むべき!

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Invisible Women: Data Bias in a World Designed for Men』Caroline Criado-Pérez著、Harry N. Abrams

タイトルの直訳は「見えない女性:男性向けにデザインされた世界におけるデータ・バイアス」。私たちの社会が男性を基準にして設計されているために「gender data gap」つまり女性に関するデータがいたるところで圧倒的に不足していて、女性は何らかの不具合を経験しているということを指摘した本です。

不具合の程度はさまざまで、たとえばオフィスの温度は男性の代謝を基準に設定されていることが多いため女性には寒い、男性の手の大きさに合わせたピアノの鍵盤やスマホは女性には大きいといったことから、もっと命にかかわるような深刻な不具合も存在します。

公共の場で安全に過ごせない可能性も、車の事故で死ぬ確率も、心臓発作で誤診されるケースも、女性の方が高いのです。男性の臨床実験しかしてなかったために女性には薬が効かないことがあとで判明したり、男性とは代謝や筋肉量が異なる点や生理とホルモンバランスなどが考慮されていなくて、逆に副作用が出るということも。病院で適切に診察されない事例は、私も似た経験があるのでわかります。

女性のニーズが反映されないプロダクトやサービスについても興味深く、その一例が途上国で使用されていた昔ながらの薪などの燃料を燃やすタイプのかまどの話。そうしたかまどからは有害な煙が出るんだけど、調理をするのは主に女性で、煙に毎日長時間さらされるため、健康上のリスクが高まるという問題があったのです。

そこで、その対策がいろいろ考えられるんだけど、実際にかまどを使って料理してない人が設計した高性能のコンロはピントがずれていた(あるある)。女性には使いづらい、メンテの方法がわからない、何より費用が高いなどを理由に失敗する。最終的に成功したインドの事例は、女性のニーズを反映して、従来のかまどにひと工夫することで改善を図るという方法でした。

他にびっくりな身近な話でいえば、2014年にAppleが健康モニタリングシステムを発表したとき、総合的なヘルストラッカーだとして血圧や歩数、血中アルコールや銅の摂取量まで記録できるのに、肝心な生理のトラッカーがなかったというやつ。え!?Apple、なんで?と思ったけど、発表後に多くの女性から速攻で指摘が入ったらしい。

「男性は意図的に女性を排除していたのではなかった。女性のことを考慮しなかっただけなのだ。女性のニーズが異なるかもしれないとは考えが及ばなかった。こうしたデータ不足は、計画の時点で女性が関与していないことによるものだった」

と著者が言うように、プロダクトやシステムをデザインし、サービスや法律など世の中のさまざまな物事を決定しているのが主に男性なのでこうしたことが起きてしまう。想像力にも限度というものがあるので、そりゃ男性にはわからないことありますよね。生理の記録だってかなり重要ですけど、経験していなければどう大切なのかは実感できないですよね?

本書は「日常生活/職場/プロダクトなどのデザイン/医療/公共サービス/災害や非常事態」といったテーマで構成されていて、それぞれどのような場所で女性のデータが抜け落ちているのか、そのためどういったことが起きているかという数々の事実が記されています。

公共交通機関の利用についても男女で差があって、男性は会社と家の往復の場合が多く、女性はもっと複雑な動きをする傾向にある(仕事、子供の送り迎え、高齢者の病院付き添い、買い物……)というのも、なるほど面白いですね。そして女性は公共の乗り物で性暴力に遭遇することが多いけど、ほとんどの女性が報告をしない。これは日本だけじゃなくて、海外もそうなんだなと思いました。

何かをデザインする人、ものを作る人、サービスを提供する人、公的機関や企業で意思決定をする人にとって、とても参考になる役立つ内容だと思うし、日本社会にも当然あてはまることがたくさん出ています。ということで、多くの人に読んでほしい本。翻訳されるはずと思っているんですが、どうでしょう。英語でも読みやすいです。

by rivarisaia | 2019-09-29 23:22 | 書籍 | Trackback | Comments(9)
毎年、米国図書館協会(ALA)は、禁書申し立てを受けた本のベスト10を発表しているのですが、先日もそんなニュースを見て思い出したのがこの本。良書ゆえにブログにも感想を残しておきます。英語でも読みやすいし、邦訳もとてもよいのでおすすめ。児童書ですが、大人にもぜひ読んでもらって、子供と本の関わり方について考えてみてほしい。

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Ban This Book』Alan Gratz著、Starscape
(邦訳は『貸出禁止の本をすくえ!』ないとうふみこ訳、ほるぷ出版)

主人公は小学4年生のエイミー・アン・オリンジャー。両親とふたりの妹と暮らしていて、にぎやかなのはいいけど、家の中でのんびりと落ち着ける場所がないので、親にはクラブに入っていると嘘を言って毎日放課後は図書館で過ごしている。

ふたりの妹に迷惑をかけられても、お姉さんだからがまんしろと言われ続けているエイミー・アンは、言いたいことがあってもハッキリと言えない内気な性格だった。

そんなある日、図書館からエイミー・アンの大好きな本が消えてしまった! 子供が読むのにはふさわしくないと保護者からクレームがついて貸出禁止処分になったのだ。
大好きな本を守るため、エイミー・アンは友だちと一緒にある行動に出るのだが……

エイミー・アンと友だちが次々に考え出す方法がまるでスパイ活動のようでワクワクするし、そうやって行動していくうちに、自分の意見をハッキリということができなかったエイミー・アンがだんだん変わっていく。子供たちの作戦は何度も危機に見舞われて、どう展開していくのかハラハラしどおしで、最後はかなりスカッとします。

またさりげなく司書の役割が示されているのもいいですね(最後にちらっとですが借り手のプライバシーについても触れています)。

ちなみに最初に図書室から消えた、エイミー・アンが大好きな本というのは『クローディアの秘密』。

本書に登場するのは、過去30年間で少なくとも1度はアメリカの図書館で貸出禁止または異議申し立てされた本ばかりなのですが、邦訳は巻末に「おはなしに登場する本」の一覧リストがついていて、おまけに邦訳が出ているか否かも書いてあるという親切設計です。今後の読書の参考になりそう。私も読みたい本が何冊もあるなあ。『Wait Till Helen Comes(未訳:いまにヘレンがくるからね)』がいちばん気になる!


by rivarisaia | 2019-09-25 23:16 | 書籍 | Trackback | Comments(0)